掛川奮闘記

2003年09月04日(木) 030904_「盗水」って…

【大井川用水盗水問題】
 世間を盗水問題がにぎわせている。

 「盗水」というのは穏やかではないが、法的にはそうなると言うことである。静岡新聞9月5日付のホームページによると、タイトルが「大井川農業用水を違法転用 農政局に是正指示 静岡河川事務所 」となっている。
 
 内容としては、国土交通省静岡河川事務所が四日、大井川から取水してこの両岸の農業地帯を潤す大井川用水の流域で、農業用目的として利用を許可された水が、違法に工業用水などとして取水されていたとして、水利権を持つ関東農政局大井川用水農業水利事業所に対して是正措置を指示した、とのこと。

 静岡河川事務所によると、わが市や大東町も含むど一市四町の計十九カ所で、昭和四十七年ごろから河川法に違反する取水が行われ、このうち十一カ所は今年行われた調査時も取水が続いていた。同事務所は、目的外使用の中止などを求めている。

 大井川用水をめぐっては、関東農政局が八月に違法状態にある事実を確認し、報告を受けた静岡河川事務所が同二十九、三十日に各所を立ち入り調査した。

 是正措置を受け、小笠郡の各町や水利組合は河川法に抵触する現状を解消するため協議を始めた。農業用水の正式な転用や、天竜川や菊川からの取水の可否も視野に入れ、水を利用している事業者や県も交えて恒久的な解決策を探っている。

 転用を続けるある町の幹部によると、「このあたりはもともと水資源に乏しい地域であり、井戸を掘っても塩水がわく土地柄なので、工業や飲料としてやむを得ず転用に踏み切ったのではないか」と産業誘致に尽力した過去の事情を話した。是正措置に対しては「配水をやめれば企業の操業停止につながってしまう」と困惑する。


 …というわけ。つまり、もともと農業用水として大井川から水を供給する導水路がこの地区に整備されたのだが、全てを農業用として使い切るわけではなく、余った水はそのまま川や海に放水されてしまうので、余った水を再利用するくらいなら構うまいと考えたのか、その水を農業用の目的以外に使用していたということ。

 そしてそれが、このたび公に明らかになったことで、水利権を管理する国土交通省から「違法状態の改善が強く指示された」ということ。

 水を取る水利権は厳しいものだが、河川法が出来る前から農業のために河川から水を取っていたわけで、こういうものは慣行水利権と呼ばれて、そのまま認められる。

 河川法ができてからは、必要に応じて河川管理者に申請をして、その取水が他の利害関係や河川維持に問題ないと判断されて初めて取水が許可される。

 許可されると言っても、そう簡単なものではない。現在ではほとんど新たな水利権を取るのは無理だとも言われる。また、一度水利権が認められると、これを剥奪することはないし、水利権を変換することもない。
 非常に強固な権利なのである。

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 現在の水利権の問題は、そのほとんどが農業用として認められている権利なのに対して、実際は減反や農業構造の変化のために、実際には取水しているほどには使われていないことである。

 河川管理者から言わせれば、「農業のために必要だ」というので認めたのであって、実際に使っていないのであれば、水利権を返せ、ということになる。そもそも使いもしない水を河川から取ってしまうために、下流域では水が少なくなって、川の魚や生物の生息環境を維持できないということにもなる。
 「えーですか?川は水が流れているのがあたりまえなんです!」

 逆に水利権取得者から言わせれば、「一度返せば簡単にはもらえなくなるし、そもそも今は使っていないが、またいずれ農業用に使うかも知れない」ので簡単には返さない、ということになる。
 「返しても良いけど、すぐにまた取らせてくれるのか?」


 特に、慣行水利権と呼ばれる、何でだか分からないが、とにかく取る権利が認められている分は、全く手がつけられない一大既得権で、河川管理者(国土交通省)にすれば面白くないし、権利者(農水省)にすれば、おおきな権利である。この省庁間の争いもすごいのだが、一応これまでの仕切の結果均衡が保たれている形にはなっているのだ。
 
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 そんなところへきての、今回の盗水騒ぎである。我々のこの地域は昔から水が無くて生活をするのにものすごい苦労をしたところなのである。わが市は、その昔当時の市の予算からすれば莫大な投資をして井戸を掘って水道事業を始めたのだが、今ではその井戸の跡地には水神様というお社が造られて地域の人たちから感謝されているし、そこでは毎年4月の初めに水道感謝祭がいまだに開かれているのである。

 それほど水に苦労したこの地に農業用とはいえ用水が運ばれてきたのである。当時の住民達の喜びの程が知れようというものだ。

 農業用水が地域に来たものの、いくらかでも余っているのならこれをより有効に地域のために使おう、というのは当時としては自然的な考えだったのでは無かろうか。

 わが市でも、市内の河川から飲料水を取水していたときに上流で事故があって河川が汚れたために緊急避難的に農業用水を川に流してそれをすぐに取水するといった形での受水をしたあたりから水をいただいていたらしい。

 わが市の場合、その後飲料用水として大井川広域企業団による配水が行われるようになってからは切り替えて、昨年には点検用に取水することがあった、くらいになっていたのだが、今回の調査で、「完全に取水できないように施設を撤去せよ」という指導を受けた。

 わが市の場合はそんなわけで、この水がなくてもやれるのでそれほどの問題はなかったのだが、他町ではそこから誘致した工場への工業用水として提供しているところもあったのがばれたので、取水が禁止されると工場の操業もできなくなってしまう。 

 国土交通省の姿勢はかなり厳しいもので、「いますぐに取水を止めろ」というもの。急な話なのですぐには取水先の切り替えなども出来ないので、県としては国土交通省に対して「少し猶予が欲しい」とお願いをしているのだが、マスコミも注目している事件になってしまったために、国交省としては振り上げた拳の降ろしようがない状態になっているのだ。

 いままで頂いた水に対する損害賠償もさせられるのかどうか。しかし損害賠償は逆に罰金を払えばそれをすることが認められるという裏もあるので、どうなるか。

 いずれにしても、この地域を揺るがす大問題になっているのだ。

 国土交通省も、あまり法律をたてにして「絶対まかりならん」という姿勢を固持しすぎると、日本中の農家や地方都市を敵に回しかねないですぞ。

 法律を楯に取るのもほどほどにしたほうがよいのだが、なにしろ中央省庁というのは理屈の世界だから、彼らが拳を降ろす理屈を見つけてやらない限り、厳しい姿勢をとり続けなくてはならないのだろう。

 ちょっと前は同じ事を「目的外使用」と言ったものだが、最近のマスコミや週刊誌に載る表現は「盗水」。時代は変わったものである。




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