「寡黙な死骸 みだらな弔い」と 二つ同時進行で読んだ。 小川さんの物語の世界は、入って行くほどに戻ってこれなくなる。 一度踏み入ってしまうと、そこから戻ってきたとき、私ってどんな人になったんだろう。 以前の私なのか、それとも、もう死んでしまった人なのか、なんて妙な感覚に取り込まれてしまってわけがわからなくなってしまうのだ。 特にこの短編集はそうだ。 以前に読んだときも長い間戻れなかった。 作品の中にある「拷問博物館」が、なんだか現実味を帯びてきて眠っているときや、一人で歩いているときにいきなり目の前に現れてきそうな錯覚さえ覚える(笑) そんな自分が、子供じみていて自分であきれるのだが・・・ 小川さんの言葉を借りれば ”物語はすでに誰かによって秘密の洞窟に刻み付けておいたものを、いろんな作者が私(小川さん)に語って聞かせてくれているのだと感じる一瞬が一番幸せなのだ”とあった。 小説というのは、洞窟に言葉を刻むのではなく、洞窟に刻まれた言葉を読むこと。 なんて、すばらしい言葉だろう。 私は、物語が好き。 わかりやすい言葉でいろんなことを表現してくれるそんな文字たちにこれからもずっと会っていたいと痛切に思っている。 小川さんの言う”名も知らない誰かが刻みつけた洞窟の言葉たち”を 作家と呼ばれる人たちができるだけ沢山見つけて一つ一つ読み上げてくれたら嬉しいと、心から思っている。 今日は、相変わらず暑いけど、「なんとなく雨模様」の一日。 つい、物語の世界に入りすぎたかも。 そろそろ現実に戻る時間になってきたようだ。
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