もうかなり前から読もうと買っておいて、そのままになっていたのを引っ張り出して読んだ。 解説の川上弘美さんが「キリコさん」を短編の中で一番好きだと書いていたので、私も一番に読む。 私は文庫を買うときに先に解説を読んでしまう。 解説者が誰かそしてどんな面白いことが書いてあるか、私にとって本を買うときのポイントになっている。 う〜ん、やっぱり小川洋子さんの本だ。 小川さんの世界は読んでいて、完全なる創作の世界とは思えない。 主人公の”私”は小川さん本人で、小川さんがが経験したものをそのままやわらかい筆致でスケッチしたものだと本気で感じる。 キリコさんはなくした物を探し出す、いや、見つけ出してくる天才だ。 それも絶対にありえないことなのに、実にこともなげに見つけ出してくる。 洋子さんの作品は失われていくものを書いたものが多い。 美しいものが愛するものが身の回りからどんどん消えていく。 美しい言葉や砂糖のような優しさの中に取り返しのつかない残酷さが潜んでいる。 「密やかな結晶」の記憶狩りしかり、「薬指の標本」しかり、 「完璧な病室」、「凍りついた香り」、「余白の愛」だって。 そんな作品と比べてこのキリコさんは、何かが違っている。 小川さんの気持ちの奥底にたゆたっている、本当はなくしたくない大切なものを たっぷりした肉体のキリコさんが何事もない顔で運んでくるのは私を幸せにしてくれる。 これらを、少女時代に読める今の若者っていいな。
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