3月10日付で転勤して郊外の街に住み、中くらいの女と暮らし、 「遠くで犬がないてる パイプベッドがきしんでうるさいのかな」 というなんだか虚ろで薄い膜が張っているような詞が、 スガシカオの「310」という曲にある。
この詞を聞くといつも思い出す友人がいる。
数年前、東京のど真ん中で暮らしていた友人が九州の郊外へと転勤した。 それまでやっていた営業は自分には向かないから総務に移して欲しいと 自分から懇願したというのだ。 そういう場合、普通は転勤というより左遷である。
一度だけ、友人の結婚式のついでに彼の部屋に遊びに行ったことがある。 彼の服や部屋はセンスが良くて、羨ましいほどだった。
そんな彼に二年ぶりくらいに昨日連絡を取ると、今年の秋に結婚するという。 僕は彼がどんな人とつきあっていたかを粗方知っていたので、 誰と?と聞くとその誰とでもなく、親しい大学の同級生だという。
僕の知っている彼は、その当時付き合っていた彼女とセットだった。 うまく説明できないのだが、彼のそばにはいつも彼女がいて、 いつか彼らは一緒に暮らし、そのまま生きていくのだろうと思っていた。 周りの友人達も同じようなふうに思っているようだった。 でも、彼らには彼らなりの事情があって、付き合ったり別れたりを 繰り返した挙句、別の道を歩んでいったようだ。
電話でこちらの話もした。 今度会おうよ、という彼の声は明るくて、やはり羨ましかった。
その後、彼女の写真をメールで送ってもらったが、 彼とその彼女とが二人でいるところを想像できない。 写真の印象からだけで失礼だとは思うのだが、 彼女は中くらいの女にしか見えなかった。
自分で何故そう思うのか分からない。 ただなんとなく、悲しかった。
今度君のことも彼に話してみようと思う。
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