18歳の時に母方の祖母を亡くしたとき、 見舞いにも行けなかったことを悔やんでいたので 父方の祖母が入院したとき、頃合を見て見舞いに行った。
その日は前日の雨が嘘のような青空だったと思う。
母の運転する軽自動車に乗って病院へ向かった。 祖母は早くに夫を亡くし、一人で子供を育てあげたためか 非常に気が強かった。 またしつけにうるさかったので 一緒に住んでいた長男の嫁とはかなり仲が悪かった。 僕の父は次男なので直接その影響は受けなかったが、 親類同士でいがみ合う姿はみっともない以外の何者でもない。 病院までの道のりで、長男の嫁は入院費は払っても決して見舞いに行かないと 普段あまり悪口を言わない母が愚痴を言ったのを覚えている。
大部屋の一番窓際で寝ていた彼女は、もう90歳になるというのに とても綺麗な顔をしていた。 母についで僕が話し掛けると、もう殆ど意識が無いというのに しっかり僕のことを覚えていて軽く悪態をついた。 母が花瓶の花を替えに洗面所に行っていた間、僕は彼女の手を触って話し掛けた。
僕がいる間、ずっと意識はしっかりしていた。 何を話したのかはよく覚えていない。 ただ、未来を約束するようなことを何か言ったのだと思う。
次に彼女に触れたのは、密葬の直前だった。 おばあちゃん子だった従姉妹が泣いていた。 生気を失った肉体は、それでも美しかった。 軽く頬をなでて、僕はさよならを言った。
長男の嫁は、葬儀のその日に祖母の着物を全て処分させたという。 死んでも消えない想い、たとえそれが憎しみであっても もしそれに意味があるのならば、時々思い出して欲しいと思う。
本当は人間の記憶なんて曖昧だ。確かあの日は曇っていた。 それでも僕は、彼女のことを青空とともに思い出す。 なぜだかはわからない。でもそれは青空だった。 それを忘れないうちに、墓参りに行こうと思う。
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