女友達となりゆきでキスをした。
嘘だ、なりゆきじゃない。半分は判っていたし、覚悟していた。
考え方も趣味も似たところがあって、 電話やメールで結構いろいろ話をする友人だったが、 訳あって積極的に会ったりはしない仲、という彼女。
昼頃駅に着いて、彼女にメールを入れると程なく彼女の姿が見えた。 僕は腰のあたりで小さく手を振った。
僕の知らない彼女の生活圏を巡る。 年末押し迫る平日の、太陽が高い時間には人気も少ない。 僕らは手を繋いで歩いた。 彼女の手は冷たかったが、僕の手は暖かかった。
美術館の裏で、老夫婦がこちらを見ていた。 僕のトリガーが引かれたのだと思う。 ガラス張りに吸い込まれるように建物の影に近づくと、 やや強引に繋いだ手を引っ張り、一息置いてキスをした。
二回目のキスで受け入れられて、それから手続きは不要だった。
長い一瞬の煌きが今日なのならば、これから暫くはその残像を見るのだろう。 そんなことを考えながら帰りの列車の扉の向こう側を見ていた。 この日提出した答えは、果たして正解だったのだろうか?
最後には、彼女の手は冷たく、僕の手も冷たくなった。
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