嶋さんからの返事を待っている時間は思っていたより長かった。その間何をするでもなく家でボケボケしていた私を見かねたのか、母が運転免許の取得を進めてきた。この期に及んで新たな金銭負担を親に強いるのに気が引けたが、結局は自分で決めて地域で一番安価で取得できそうな隣町の教習所に行くようにした。何事にも全くやる気の出なかった当時の私が自分で動いたことは自身でも思いがけず不思議なことだった。
とりあえず毎日の生活にやることができた。入所時に所内教習のスケジュールを全て組んでしまったのでその通りにほぼ隔日で通った。教習所までは5,6キロの道のりを自転車で通ったのだが、高校の通学路に比べればまったくの平坦な道中だったので、旧街道の杉並木の涼をむしろ楽しんでいたように記憶している。
順調だった。最初の効果測定を侮ってしくじってからは学科もちゃんと復習してから試験に臨んだ。運転のほうは学科よりも順調で仮免までパーフェクトの出来栄え。持ち前の大人に受けのいい性格はこんなところで役に立つ(笑)。
仮免を受ける直前、季節はすでに夏へと変わりつつあったよく晴れて青い空の遠くギラギラした日だったと思う。その日はキャンセル待ちか何かで、涼しい事務所の待合室で待機しながらぼんやりと外を眺めていた。そんな時ふと中学時代のクラスメートと居合わせ話をした。こういう場合、自分の言動に無責任に話が出来るとでも思ったか、それとも単に中学時代の自分を懐かしがっていただけか。そのとき私は友人には決して漏らさなかったような非現実的な自分の望みを彼に語った。「どこか遠くへ行きたい」と。
今あるこの環境から自分を消してしまいたい。まだそういった望みを捨てていなかったあの頃の私は、根拠がなくとも変に自分の望みに楽観的だった。思い込みが激しいとも言う(笑)。
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