心根の素直な嶋さんと縁を切ることは、試みとしては簡単に行なえて目的を果たせるだろうと思っていた。そういった行為を難しくさせるものは全てそれを行なう人間の感情の中にある。1度目のそれは正に自らの意思で目の前の彼女との離別を拒んだ。元来持っていた意思決定の曖昧さが図らずも露呈してしまって苦々しくもあったし、それすらどうでもいいような気持ちになっていった。変な表現ではあるが、自分の気持ちがその気でいるうちに2度目を実行しないとまたダラダラと文通を続けていきそうな気がした。私が当時持っていた考え方は明らかに嶋さんには害だった。それが分かっていながら思考を改める気のない私の中でこの試みは正当化されたようだ。
入院生活の明けた6月中に手紙を書いた。慎重に言葉を選びつつ同情を誘わないように気を使いながら、正直に当時の自分の置かれた状況説明と率直な挫折感を短い手紙にしたためたと思う。この手紙は明らかに次への伏線でしかないので普通に投函したが、それを読んで再び返事を書いてくれるであろう彼女自身を想う、キリキリとした日々が続いた。
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