5月の末。ここのところ自習には付き合わなくなりがちなタケダと勉強後に合流して街を宛てなく徘徊した。街の放つ熱気は湿気含みのパラダイス。駅前は週末ともなると某大学のサークル関係の待ち合わせでごった返す。人とすれ違えばその汗を感じるほど近く、そんな中を掻き分けて通る不愉快は何時しか麻痺して何とも思わなくなった。
あの日は土曜日だったと思う。待ち合わせ時間に予備校へやって来たタケダに促されて、外へ出る前に洗面所へ寄った。そこで水分補給をするため蛇口に身をかがめ、水がのどを通過した瞬間に胸部で痛みがはしった。
今まで感じたことのない痛みだ。驚きはした。ただ堪えられないほどでもない。側で私を見ていたタケダにもそれほど深刻な様子には見えなかったことだろう。その証拠に、我々はいつも通りに牛丼屋で腹ごしらえをしてからゲーセンに繰り出したのだ(笑)。そこで私は座席の稼動するゲーム機の中で「いたいいたい」と言いつつ揺れるテスタロッサの運転をしたのだ。この時点では本人も「一晩眠れば治るだろう」くらいにしか考えていなかった。それはとても不毛な普段の夜と変化ない光景だったはずだ。
果たして翌朝も、その痛みを抱えて日曜の朝刊を配った。
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