あお日記

2002年10月24日(木) ひとり

 4月の半ばごろから兄貴肌の配達員が店に加わった。必要最低限のコミュニケーションしかする気の無かった私は彼に限らず、ほとんど自分から話しかけることはなかったが、彼らはそれを「おとなしい」という罪のない評価に落ち着かせてくれた。

 私と同期の奨学生である臨君は私とは全くタイプの違う人間であったが、単身で同じような環境に身を置くことになったその共通点が時に私の決意をぐらつかせる事もあったか。私は彼が毎日の生活に不安を覚えていることも知っていたし、店の従業員たちと上手く立ち回れない姿もよく分かっていた。それでも私は何もしなかったし、彼に声をかけることもなかった。とある朝刊配達後に私が珍しく彼の分の目玉焼きを焼いて渡した時、あの時の彼の素直な驚き様が、いかに私が無為に彼と交わらなかったかを私自身に示した瞬間であり、正直ゾっとする刹那だった。

 5月に入ったある日、薄明の中部屋から降りてきた臨君の顔に青アザが痛々しく残っていた。どうも「兄貴」と前の晩にやりあったらしい。これで彼が奨学生を辞める決意はより強固になった。私は彼の子供な言い分には賛同できなかったが、理解はしていた。だが「兄貴」のさも理論立てて自分を正当化し自尊心を満足させたがるその利己的な態度が好きではなかった。

 まあどちらにしろ、当時の私にとって人間関係の構築になど何の興味もなかった。それは社会というものがどのようにして成り立っているのかを無視した態度であり、自分の幼稚さを否定できない証明となった。

 ひとりで生きている気がした。
 ひとりで考えている気がした。
 ひとりで苦しんでいる気がした。
 ひとりだけ違う人間のような気がした。

 それでも、自分が「孤独」だと思ったことはなかった。そんなものが欲しかった訳ではないからだ。自らを「孤独」と認める人間が兄貴のようなヤツよりも嫌いだったからだ。


 まあ今思うと、臨君より先に私のほうが辞めるとは思わなかったが(笑)。



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