勤務はまず配達区域の道順を覚えることから始まった。店の横に並べて置いてある古ぼけたいわゆるドカチャリに乗ってこれから生活する街の中を徘徊した。記憶力の悪い私でも日常の習慣化で覚えたその道順は、配達を辞めてからもしばらく忘れそうになかった。
所長の話では私用に「プレスカブ」といういわゆる新聞屋仕様のホンダのカブを買ってくれることになっていた。ただその前に原付の運転免許を取る必要があった。自動車免許と違って原付免許は学科だけである。それに油断した私はほとんど予習もせずに、日曜の休日を利用して地元の免許センターへ出かけた。そしてあっさり落ちた(笑)。
その旨を所長に伝えると、「原付の試験に落ちるなんて初めて聞いたよ」とか言われる始末。次の試験までにはまだ間があるので、それまではドカチャリで配達するしかない。ただ、仕事の内容自体を苦に感じたことは皆無であった。あの日の朝を除けば...。
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