東北の有名男子校から転校してきたタケダもすっかり我々と同化した感じで、いや、そんな中でもむしろ仲間内では自分の欲求を具現させることに最も前向きだったのが彼だろう。その後の彼はまあ恋愛に限っていえばパイオニアだった(笑)。そんな彼も高校生活で具体的に動いたのが2つ下のハマちゃんとの一件だけというのだから今思うと不思議な気もするし、奥手な私の監視下だと恋愛はしづらかったとでもいうのだろうか。多くの会話の中に登場する恋愛話は極めて少なく、一人歩きな理想論を語り合っていた我々だったが、おそらくラザもタケダも私と「恋愛論」について語ってみたかったのではないか、と後に思ったことがある。 いっちゃんへの想いをラザに打ち明けるのに、これまた10年ほどの時間を要したのだが、その時彼は私に言った。
「ずっと彼女のことを思い続けた、ということではないよ」
これは正論であり、冷静に振り返る私には拒否できない言葉だ。ただ私はラザとこの話をした時にはまだ自分自身の言動の根拠が全て「いっちゃん」から出てきているのだと信じていたのだ。事実はどうあれ、結局私は自分の中にある気持ちをひとりの女性に求め過ぎていた。彼女でなくてはダメだということではない。彼女に再会するまでの間に私は彼女以上に可能性を感じる人間に出会わなかっただけだ。あるいはそう思い込んでいて他に目がいかなくなったか。そういった意識の停滞は色々なところで悪循環を生んでいく。
卒業間近まで2人で良い雰囲気に見えたタケダとハマちゃんは、彼の告白から一転してぎこちなくなってしまった。卒業式当日、部員全員が一堂に会した席でハマちゃんは私を盾にするようにタケダを避けるのだった。何も知らされていなかった私にはそれがとても恨めしい構図であった。そういった情報が入ってこないのはひとえに私自身に問題があったからなのだが...。
|