再び部室に戻った頃はまだ薄明前で午前3時頃だったと思われます。わざわざ用務員のおじいさんの部屋の前を通って部室に行きました。誰が扉を開けたのかは覚えていません。私はシンガリから着いていくのが好きであの時もその例に倣っていたはずです。
限りなく最後に部室に入る。照明を灯していないその狭い部屋の真ん中にある机を囲むように腰掛ける所があるのだが、そこには2人だけ腰掛けていたように思う。それは杏さんと『マグ男』だった。マグ男は私と同級でこの時期によく部室に来ていた他者だった。
それまでの歓喜と熱狂の渦が一瞬ドス黒くなったように停滞したのを感じたのは、私が最後に入っても誰一人腰掛けようとしていないその違和感だったのだろう。それを打破したのは杏さんの信奉者であるいっちゃんだったと思う。おかげで何事もなく時間が経過していった。それが是か非かは別として...。
程なくして部室の扉が開いて、数時間前の公約どおりに舞ちゃんが登校してきた。その時間になってようやく薄明が始まってきた。余談だが、私はこの暗がりで初めて「舞ちゃん」と彼女に呼びかけることが出来たのだった。
さすがに落ち着いてみると眠気が襲ってきた。それは他の横浜組も同様で、帰宅したい人間は一度帰ってから文化祭に参加することになった。
帰りは銀さんに送ってもらった。同乗者は恐らくラザ、ミルだったと思う。その帰りの中、銀さんが先ほどまでのノリの良い口調とは明らかに違った厳しい口調で言った。
「何が『青先輩のこと口説いちゃおうかな〜』だよなぁ」
それは横浜入りする前の車中で住吉が吐いた言葉に対する素直な拒否感だった。当時の私は周囲の事情に疎いほうだったので、彼個人が住吉とは相性が悪いのだと単純に受け止めたのだった。実際このときに銀さんがどこまでの気持ちでそれを吐いたのか分からないが、私の想像以上に、事態は我々の望む方向とは別のベクトルを示して突き進むのだった。
私はただ...自分にとって快い時間があればそれでよかったのだった。
残念ながら。
|