周さんといっちゃんの復帰後はまた何事も無かったかのように活況となった部室。真夏のエアコンも無い狭い部屋に入ることの出来る人間の数は当然ながら限りがある。さすがに8月も中ごろになると部外者は一部を除いてあまり顔を出さなくなった。というのも、数日話題に参加していないだけで集団のノリの流れに乗れなかったのだ。なぜかこの部は個性的で綺麗な子もいればかわいらしい子もいるし優しげな子もいるし、強がってる子もいた(笑)。男たちにとっては目移りするような花園だ(笑)。彼女たちが部室に来る予定に合わせて来ていた輩もいたくらいだ。ただタケダのような部員ならともかく、部外者でこれをやっていた人間はことごとく我々の持つ雰囲気の中には入ってこれなくなってきた。それは裏返せば集団に「仲間」と認められていない証拠でもあり、徐々に人間の淘汰が為されていく。
周さんは杏さんとの関係をいかにするべきかで悩んでいる日々で正直なところかなり弱っていた。銀さんは地元の幼なじみの女性と付き合っているのかいないのかよくは分からないがお互い魅かれているような関係だった。タケダはハマちゃんに思いを寄せるも傍観の姿勢。ラザはいっちゃんにアタック継続中。
この部に関わっていた男子の恋の方角は、「終」「始」の違いこそあれ、みな向いている方角が確定していてそれを仲間と目される周囲の人間が認知していた。だからこそ無駄な利害の衝突も無く楽しげに回っていたのか、少なくとも男子の間の結束は日に日に増していくのだったが、それに一人参加せずに蚊帳の外にいる自分がいた。もともと私は自分の恋を秘めることしかしてこなかったので、それを語る相手は対象の本人以外有り得ないのだ。当時の私はそういった自分のささやかな悩みを打ち明ける友人として彼らを選択することができなかった。そういった私の「拒絶感」が明らかに彼らとの間には存在していた。
夜になると、なぜか昔のように考え込むのだった。いっちゃんへの想い。ラザの恋の成就。周さんと杏さんのぎこちない関係。銀さんにいまいち打ち解けられない自分。タケダの視線を感じていながらハマちゃんを上手に扱えない(あしらう?)自分。
杏さんのカラ元気は見ぬふり。日に日に増すいっちゃんの笑顔の輝きとラザの告白を回避し続けることへの不審。ハマちゃんのいちいち目に付く私への信頼の表明に困惑。
「違う。私が求めている人間関係ってなんなんだ? 結局自分は周囲の人間を受け入れずに上面だけ揃えているだけなんだ」
とある夏休みの部室、その夜にも相変わらず部室の中はどうでもいい会話の渦。それを心から楽しんでいない自分が存在する事実(まあそう思い込んでいた事実ね/笑)に抗えず、私は一言だけ「帰る」と言い放つとその返答の届かない先、すなわち夜の帳の中へ自分を消したかった。
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