1学期の期末テストが終わった頃だっただろうか、デパート内の寿司屋でバイトをすることにした。特に欲しいものがあった訳でもないし、暇を持て余していたわけでもない。当時違う高校に進学した友人で唯一音信の途絶えなかった『勝』くんの紹介で面接をすることになった。 そんな状況だったので私に「仕事」に対する責任感など皆無だったし、社会というものから隔離された学生生活だったので今思うと全くもって子供も子供、大子供だった。バイトの面接というのは「採用の有無」を決めるためにあるのかと思っていたが、実際私が受けた時には採用が決まっていて、「君は進学校だから進学希望かい? それなら大学生になっても続けられるね!」とか「そのうち勝くんに変わって店を任せられるくらいになって欲しいよ」といった自分すら見知らぬ先の展望まで語られて、正直私はかなり引いてしまったのだ。まあ人にもよるのでしょうが、こういう場合の男子は同い年の女子に比べて全くもってだらしないですね。
当時から生モノが苦手だった私ですが、仕事自体は面白かったのだ。寿司屋とは言っても所詮はパック詰めの廉価版なので味のほうがどうだったのか、知りたくはない。シャリは工場で個々に握られたものが届く。そして冷蔵庫から10食分くらい入ったイカやエビ、タコ等の既製品のネタパックを目の前に並べて造りました。食べたくなったらその場で食べても良し。店長はほとんど顔を出さないので私の母ほどあるパートのおばさん連中は3個に1個くらいは胃袋の中だったかもしれない(笑)。そんな中で私が食べることが出来たのが玉子だけだった。流れ作業なので間違って玉子にもサビを入れてしまって、それがまたけっこう美味かったのである。
結局私は勝くんに迷惑をかける形でバイトをやめることになる。それは夏休みの楽しみがバイトではなくて部活のほうにむいた、といった単純な理由だった。つまりは「いっちゃん」のほうに向いていったということだ。
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