あお日記

2002年08月29日(木) いっちゃんと私


 自分にとって居心地の良い居場所というのは裏腹に「逃げ場所」という事実を簡単に覆い隠してしまう。快楽だけをきらびやかに具現したあの夏はまさに私にとって居心地の良い逃げ場だった。それに気づかなかった私は、あの時の熱狂と人を動かす力が有限である未来などを思った瞬間もなかった。

 特に印象的なのは彼女の笑顔だった。彼女が笑えばそこにいる全ての人間が楽しんでいる証だった。問題はそれが心の底から得たかった快楽ではなかった点だ。人間にはその数だけの思考があり欲求があって、年頃の学生だった我々の中で語られる重要な未来などはせいぜい恋の増減くらいのものだった。愛することを知らず、愛されることを知ろうともしない。少なくとも私は、孤高を気取って周囲の人間から一歩離れた場所にいたがる人間だった。

 端的に言ってしまえば、いっちゃんもまた私の嫌っていた「容姿で簡単に人を判断できる女性」だった。後から本人に聞いたことだからまず間違いはないのだが、彼女はこの私の容姿が大変気に入っていたようである。もっとも、高校生の頃の私は全くと言ってよいほどおしゃれなどに縁のない人間だった。また自分の容姿を徹底的に飾らないことで自分の嫌いな人間たちを遠ざけてきたのだ。そんな私であっても、日々接する時間が多くなるにつれ、彼女はこれ以上ない笑顔で喜ぶのが手に取るように分かるのだった。

 ただ、彼女の私に対する態度が終始変化しなかったのは、これまた私が「無害」という事実によるところが大きいのだった。彼女が好きになったものは、私の容姿ももちろんだったのだが、それよりもなお、私の持つ傾向のほうだったのだ。それに気づかなかった私はこの夏が終わる頃には、どうしようもないくらい彼女のことを好きになってしまっていたのだ。

 余談ですが、いっちゃんに片思いのラザは私から言わせれば男としてかなりイケている部類であり、彼女が彼のことをフリ続ける理由が分からないのだった。そして私は彼の気持ちを超えることの出来ない自分の気持ちを信じていたのだった。


 我ながら救いようのない考え方をする自分だった(笑)。まあそのおかげで私は今ある恋に自身を持っていられるのだから、バカだった自分の過去も恥ずかしくはないのだ。




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