何事においても経験値不足の私には、当時のその状況がかなり難解なものでした。もう「ぐう」の音も出ない感じで公演が終わっても動けずに考え込んでいた。いや、あの場合考えているように傍からは見えただけで、実際は「どうすりゃいいんだ?」という単純な問い掛けに答えられない自分がそこにいただけだ。
そのうち周囲の客足も徐々に落ち着いてきて、係員の「清掃作業にかかりますのでお早くご退場くださ〜い」という声にそのまま反射的に体が呼応してしまい、とりあえず立って出口方面に向かうことにした。出口に向かう人の波が嶋さんとは別方向に動いていたので結果として私は彼女に背を向ける形になった。
刹那、私の手首が後ろに向かって引かれた。その力は驚くほど強く、歩を止めるには十分すぎるものだ。そこに彼女のしぼり出した勇気がこもっていたことを知ったのは、残念ながら今この瞬間である(^^;;
思わず振り返って初めて目にした嶋さんは、引かれた手に残る印象とは異なった。目の前にいる彼女はとても背が小さく、交差した視線は彼女がすぐにうつむいてしまったのでよくその表情を感じることは出来なかった。ただ初対面はおたがい苦笑いだったことは確かだ(笑)。不思議と私に照れは皆無で、彼女の短い髪では隠しきれないその目が私とは対照的で、そう感じた瞬間から私は彼女をどうにかリラックスさせる方法はないものかと色々考えたり話したりして、今日ここへ嶋さんを呼んだその目的である胸の内はそっちのけとなった。
正直な気持ちとは、そんなものである。
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