公演は2部構成だった。その間の休み時間になっても私の右隣は空席のままだった。ただ私に落胆の色はなかった。むしろ私は嶋さんのことより講演のほうにより注意が向いていた。 もともと興味があって選んだ劇ではない。それでも私の気持ちを一時的にしろ揺さぶるような圧倒的な人間の動作がそこにあった。普段から黙然として動かないことの多い自分とは全く対照的で、今思えばその程度の興味でしかなかったのだが、当時の自分を引き付けるには十分な劇だった。 ちなみに『スターライトエクスプレス』というのはその表題どおり汽車が主人公の物語で、役者がそれぞれ機関車や客車、列車等に扮してローラースケートを履いてステージを駆け巡り楽曲で物語を進行する歌劇であった。
いつ以来か分からないほど何かに夢中になっていた私の視界を、不器用そうな歩様で横切った影があった。小さな人間の影。そして私は不意に現実へと戻された。
それは後半の公演が始まって間もなくのことだった。
私の中の血潮がめぐる、とめどなく。
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