道化者の憂鬱...紫(ユカリ)

 

 

海月 - 2002年07月29日(月)

僕達は、離れないと
そう誓って錘をつけて彼女と海に飛び込みました。

海中に沈みながら貪る様に抱き合って
温かい体温を感じたくて口づけをしました。
白い泡が水面に浮かんでいきました。

これで良かったんだと。
彼女が望むコト
僕が望むコト
後悔はしていない。

目を瞑って細い指を握りしめて
僕達は沈んでいきました。

どこからか僕を呼んでいるような声が
聞こえた様な気がしましたが、気のせいだろうと
無視しながら僕は静かに目を瞑っていました。

ふと気が付くと、僕の脚の錘が無くなっているコトに
気が付きました。
カラダがどんどん海面に向かって浮いていきます。
手を繋いでいたはずの彼女の細い指の感触が無くなっていました。

沈んでいく彼女
浮いていく僕

彼女は両手を目一杯突き出し、僕は必死で握りしめました。
彼女は握りしめている手に一瞬だけ力をいれましたが
静かに目を瞑って離しました。
どうするコトも出来ないカラダ
海面に浮いていく僕

彼女の白いワンピースが海月の様に
ゆらゆら揺れて小さくなっていきました。
もがいても叫んでも肺に海水が溜まるだけで
僕のカラダは浮遊していきました。

海面に浮かぶと、僕の名前を呼んでいた人が
泣いて僕を抱きしめました。
力強くぎゅっと抱きしめてくれました。
もう離さないとばかりに・・・。
僕はその人に手当をして貰い、その人の側にずっといました。




僕の手を離した彼女。
浮かんでしまった僕。



そのコトだけが、いつでも僕の脳裏を離れませんでした。
涙を流して抱きしめてくれたその人の隣で眠っていても
同じ時間を過ごしていても・・・。

納得出来ないまま、月日が流れていきました。

彼女が僕を裏切ったのか?
僕が彼女を裏切ったのか?
自問自答を繰り返し生きてきました。
どうしても彼女に答えが聞きたくて・・・。


今日、僕はあの場所に立っています。
彼女がつけた以上の錘をつけて・・・。
もう後悔しないと誓って海に飛び込みました。

冷たい海中に一人で沈んでいくのは、
こんなにも寂しいコトなのかと思いながら・・・。
海面に浮かぶ白い泡を眺めながら。
何処かで僕を呼んでいる声がしますが
もう、どうすることも出来ないと思い
静かに沈んでいきました。
どこまでも沈んでいって、彼女に会えたなら
今度こそ二人で宝探しをしようと考えながら
静かに目を瞑って沈んでいきました。



水の中だと涙も出ないんだな。


きっと彼女もそう思っていただろうと思いながら
僕はどこまでも沈んでいきました。


どこまでもどこまでも沈んで
彼女を探そうと思いました。





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