道化者の憂鬱...紫(ユカリ)

 

 

青空 - 2002年07月15日(月)

蒸し暑い道路を歩いた。
片手に間取り図を持って、新しい住居を探した。
背中に白いシャツが、汗で張り付いている。
ようやくたどり着いたその家は、実家の近くで
古ぼけた洋館風の家だった。
玄関をそっと開けて中に入ってみる。
廊下は軋むけれど、ひんやりしていて気持ちが良かった。
間取りも収納も申し分なかった。
そしてどこか懐かしい感じがした。

あまりの暑さで疲労していたのか、私はその家で
眠ってしまった。
遠くの方で物音がして、母と祖母が部屋に入ってきた。
「アンタってコは、いつもいつも散らかしっぱなしで」
「イラナイなら捨ててって言ってるでしょう。」とか
「どこまで、心配かければ気がすむの!」とか
そんな内容のコトを、怒鳴りながら私の実家の荷物を
ぶちまけていた。
漫画だったり、使っていた毛布とか服とかそういうモノを
私の周りに放りなげて、そうとう怒っていた。
私は、投げられた毛布をアタマから被って、ウルサイウルサイと
ひたすら思っていた。
あんまりにもウルサイから、起きあがって外に出た。
母と祖母はまだギャーギャーとわめいていた。

あまりの暑さに眩暈がした。
中学校の同級生に、道で会って少し話した。
何を話したのかよく覚えていない。

また歩き出す。
足下がふらついて数回転びそうになった。
しかし、何でこんなに暑いんだろう・・・。
電柱にもたれて目を閉じた。
吐きそうだった。

耳元で声がして、瞼を開くと妹が側にいた。
「オネイチャン、何してるの?行くよ。」
一体、何処に行くというのだろう?
「オネイチャン、今まで何してたの?あんなことに
なるなら早く言ってくれれば良かったのに・・・。」
あんなコト?
さっきから、ドイツコイツもウルサイよ。
何を言ってるのか、さっぱりワカラナイよ。
「ねぇ、本当にワカッテないの?ねぇ!!」

携帯を取り出した。
リダイアルと着信履歴のボタンがどっちだかワカラナイ。
朦朧とする意識の中で、なんとか電話をかける。
まだ、17時じゃないから仕事中だろうなと思いながらも。

「もしもし、私。ごめんね仕事中に。周りもウルサイんだけどさぁ
ごめんねぇ。あのね、何か私さぁ、刺されちゃったみたいでさぁ。
あははは、本当だよ。それでね、今、病院にいるみたいなんだけど
京都は、ホントに楽しかったから。うん、大丈夫・・・だい・・・
あとで・・・。ま・・・た かけ・・・直・・・。」




実家の側で数人の男に刺された。
何回も・・・。
見に覚えの無い借金のハナシ。
血に染まって行く身体を引きずって歩いた。
同級生が通報してくれた。
飛んでくる母と祖母。
懐かしい柔らかさの毛布。
広がる血溜まり
そこを泳ぐ携帯。
血塗れの指でかける電話。
遠のいていく意識。

あんなに五月蠅かった周りが静かになっていく。

空だけが青くて綺麗だった。
白い雲もとっても綺麗だった。

彼は名古屋から来てくれるだろうか。
京都で撮った写真を二人で見ながら、話したいな。
楽しかったね。って・・・。

そう、最後に思って目を閉じた。





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