僕らの日常
 mirin



  彼のキャンバス3@卓

「へ…ぇ…。やっと、出来たのか。スゲェな」
俺が呟いた先、大きなキャンバスを両手に抱え男は小さく
嗤う。蟲惑的な笑みで...

「そりゃ、スゲェよ。モデルがいいから」
小さく零れるように呟かれた言葉は、俺の周りを這うように
纏わりつき、耳に入る。
「そんな褒めても次はないぜ」
「あれ?それは…残念だ、な」

俺が憮然と放った言葉に男は一瞬、不思議そうな顔をして、
苦笑とも取れる微笑で俺を見ていた。

こいつと出遭ったのは、忘れもしない12月。
古ぼけたゾウのすべり台が撤去された児童公園。新しく
その場所に設置されたミラーハウスがふと俺の目を惹き、
思わず足を止めたんだ。
今思えば、昔よく遊んだ遊具がなくなって感慨深かったのか

ミラーハウスの鏡を見てる俺の顔は情けないものだった。
そんな時、鏡越しに目の合った背後の男と目が合った。
俺としては、あの状況を見られた事実が酷く気まずく…

すぐに帰ろうと踵を返そうとしたところに
『止まって』そんな急な制止の声

ぴたり

目が合った男は明らかに俺しか見てはいなかった。
腕に抱えられたキャンバス、カリカリという音を発し続ける
筆のようなもの。無という表情wを背負った男に俺が声を
かける術は見つからなかった。

その後、大ぶりに出たくしゃみがあとの光景を物語っていた。




「あのなぁ、あんな寒ぃトコで数時間も立ってたら、どっちが
凍死してもおかしくないんだぜ?あの状況は二度とお断りだ」

溜息混じりに言い、その反応を見れば男はまだあの微笑を
やめていない。うっすらと微かに上がる口角に自然と俺の
目が魅かれているのを潔く悟る。

「そう。それじゃ、屋内でならいいのかな?」

男があっさりと言い放った言葉に俺の口がぽかんと開いた。
 

2008年06月26日(木)
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