残暑はなかなか結構ひりりひりりと暑い
NNのおっさん2人の妄想とか自分の日々とか色々書いてます

1999年01月09日(土) おはなし

最近岡村さんがおかしい。
いや、大体いつもおかしいんやけど、
ちょっと変なスイッチが入ることがある。
今日のラジオもそうやった。
なんか疲れてんか?
まぁ、疲れてるのは目に見えて分かるけど。

「おい」
「え?」

放送が終わって、声をかける。
反応は鈍い。
顔は下向いたままで。

「今日ツボクラの車で来たんやろ?」
「おーそうやねん、ワイパー壊れたからやぁ」
「うん。今日、送ったるわ」

そう言ったらやっと顔を上げた。
何も言わんとじっと見つめてくる顔がちょっと可愛い。
ちょっと間があって返事がかえってくる。

「え…ええよええよ」
「ん?えーから、ほら」
「…うん」

車に乗せて、無言で走り出す。
岡村さんは前をぼんやり見つめている。

「…なぁ」

岡村さんが掠れた声を出す。

「ん?」
「この時間やったら、静かやな」
「うん、そやなぁ」

街が、という事なのだろう。
岡村さんはいまだに東京に慣れていない。
色々ありすぎて、心から好きになれないのだろう。

「眠たかったら寝てええよ、起こしたるから」
「ううん、起きてる」

しんと静まり返った街が、妙な浮遊感を持って僕らを包む。
そう感じた僕に気づいたのか、また岡村さんが掠れた声で言う。

「なに考えてんの?」

岡村さんも僕も、前を見たままで。

「岡村さんの事」

今この夜更けの街で、温かいと思えそうなものはお互いだけで。
そんな状況で何もかも隠す必要なんてなかった。

「ずっと岡村さんの事考えてるよ」

このままここで車を停めて、
ふたりでどうにかなっても良い気さえしていた。
応える言葉はなく、また暫く沈黙が続く。

「…息、してる?」

あまりに静か過ぎて声を掛ける。

「してるよ」

ごそ、と衣擦れの音がする。

「俺、お前が好きや」

岡村さんの声が、静けさより静かに響いて僕に届く。
掠れた言葉は何よりも甘く。
僕はやっぱりここで車を停めてしまっても良いんじゃないか、と真剣に考えた。

「声とか、喋るリズムとか、表情とか、全部」
「全部すか」
「うん、全部。手放したくないねん」

まるで本人以外の誰かに語るような口ぶりで、当たり前の様に言う。
僕は僕で、冷静に岡村さんの言葉を受け止めていた。

交差点で信号が赤になる。殆ど車は走っていない。

「疲れてんちゃう?」

それが僕の事なのか岡村さんがなのか反芻もせずに、思った事が勝手に口から漏れた。

「はよ、寝た方がええで」
「せやな」

次の角を曲がると岡村さんの家に着く。
早く帰して寝かせてやりたい気持ちと、そうでない思いが混ざる。
迷って出した答えは自分の疲れを言い訳に、僕は結局角を曲がる手前でブレーキを踏んでエンジンを切った。
岡村さんがこちらを向くより先に彼に覆いかぶさって、シートベルトごと抱きしめた。
空調が切れて、ひやりとした隙間風が入ってくる。
岡村さんは鼻をすすると「お前はあったかいな」と言って目を閉じた。







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むかしっから、
 ・人気のしない街
 ・触れるだけのキス
がめっぽう好きなので、似たような話しか生まれません。
静まり返った街フェチなのかもしれません。
あと、勝手に岡村さんは俺で、やべさんは僕って言うイメージです。


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油木かい [MAIL]