窓の外、 もう見慣れてしまった街は、 狭い癖にいろんなものに溢れている。 そういうものを眺めていると、今日の一連の事を思い出す。
もう何度もしている事。 毎回理由をつけて、いちいち嫌がられながら。 結局気持ちいいくせに。
ずっと一緒にいるが、公私は混同していないつもりだった。
嫌がるのは、そういう線引きをする為の一種の儀式的なもので 公然の場であることを忘れないためのものだ。 ただ、それだけ。
忌々しく煙草に火をつける。 慣れた動作。 これも、アレも、変わらない。
「なーに考えてるんすか」
矢部の声。 ちらりと見やると、いつもの顔。 “何を考えているか分からない”と言われるのも、分かる気がする。 心の変化を人前で出さないのは、相方の良い所であり悪い所でもある。
「べつに」
自分だけは、彼の些細な表情の変化を読取ることが出来たはずだ。 それなのに何故こんなにモヤモヤするのか。 次にどんな行動に出るのか、自分でも分かりかねている。 ただ、できるだけ深く考えたくはなかった。
「岡村さん」
「なによ」
煮え切らない気持ちの正体が分からないなら 答えは相方に委ねてしまうのが一番楽かも知れない。 煙草を消して、相方と向き合って 次の言葉を待つ。
「口直し、します?」
返事をする間もなく、次の瞬間には自然と目を閉じていた。
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