残暑はなかなか結構ひりりひりりと暑い
NNのおっさん2人の妄想とか自分の日々とか色々書いてます

1999年01月03日(日) おはなし

また今度の休みに沖縄いくねん」

嬉しそうな声がする。
最近沖縄に行くのが彼のブームらしくて、ちょっとでも休みがあれば飛んでいく。
海もぐって、ちゅらさんと遊んで、
帰ってきたら笑いのリハビリせなアカンくらいリフレッシュしてくる。
こないだなんか、引退して沖縄に住もかな〜なんて言い出すくらいで。

最初は、昔から東京は体に合わんとか休日はずっと一人で家におるとか言うてたし
ホンマに夢中で仕事やってる人やったから
息抜きできる良い趣味が出来て良かったなぁと思っていた。

でも、あまりに沖縄に行く回数が多くて、どんどん向こうで知り合いも増えて、
なぁんや俺の知らん事いっぱいしてきてるらしい。
そんな話を聞くたびに、すごいスピードで彼が沖縄の人になっていく気がして
モヤモヤ〜とする事が増えてきた。


うん。
彼に愛されている沖縄という存在に、俺は少なからず嫉妬していた。



そんなモヤモヤの積み重なっていたある日。
収録の合間に控え室に行ったら、珍しく岡村さんが一人で煙草を吸っていた。

「よぉ」
「おー」

挨拶のような声を出す。
次の瞬間、俺は何を思ったかこう言っていた。

「また行くんすか、沖縄」

意識せずスッと口から出た言葉は
思いの外拗ねたような声になってしまっていて
自分は重症だ、と思った。

「おー行くよー」

岡村さんは普通に答えたけど、俺の声のトーンで気づいたのだろう。
というか、何か変やなっていう顔をしてる。

「なんでよ、イライラしてる?」

直球で聞いてくる。
こういうとこは、ホンマに俺と正反対やなーなんてこと考えながら

「うん」

と、普段は「別にそんな事ないっすよ」とか返すクセに
自分もド直球で本音をさらりと返していた。

「なんでなんで、俺なんかした?」

意外と気にしぃな彼は、煙草を消してそう言った。

「いや、なんもしてないよ」
「変なことしてたんやったら言うてよ」
「なんもしてないよ」
「そやったらええけど・・・」


腑に落ちない岡村さんは、俺の様子を探っている。
そんな岡村さんの顔は日に焼けてて、そらもう海の男って感じで。

「えらい焼けてますね」

思ったままの事を口にするなんて、今日は余程おかしいみたいだ。

「おー、石垣で焼けたわ〜」
「ふーん・・・・・・沖縄好きですね」

岡村さんと目が合う。
ああ、これは気づかれたな。
思わず目を逸らす。

いつもならこういう個人的な感情も上手く誤魔化せるのに。
どうしたんや、俺。

「なぁ、おい」

岡村さんが俺の腕を掴む。

「俺が沖縄いくの嫌なんか?」
「嫌じゃないよ」
「うそやろ」

何をもってして、そんな自信有り気に否定するのか。
そこまで分かってるなら、もっと俺のほうも大事にせぇよ。
咽喉まで出かかったけど到底言えなかった。

代わりに

「側に…おってよ」

とだけ、辛うじて言った。
気づけばお互い手を握っていて、じんわりと温かかった。
涙は出ないけど、泣きそうで。
手を離すことが出来なかった。
何度も繋いだ手。
どこがどうなってて、どんな大きさかも知ってる。
安心するけど、
いつか彼の1番が自分じゃなくなる時を想像すると不安にもなる。


「どないしてんな」


多分俺は、あまり見せたことのない表情になってるんだろう。
びっくりした顔の彼が、怪訝そうにこちらを伺ってくる。
俺はと言うと、飽きるほど見てきた彼の顔を今更見ることが出来なくて
ずっと俯いていた。


「あんま、遠くに行かんとってよ・・・」


自分の声の小ささに驚く。
岡村さんは、その言葉で本当にすべて理解したようだった。

「・・・うん」

小さな身体で、俺を引き寄せて

「うん。わかった」

と言って、ちょっと背伸びして、なんとか抱きしめてくれた。

彼がそうしてくれるのは紛れもなくそういうことで、
俺はもうこの時点で、さっきまで嫉妬していた沖縄に優越感さえ抱いていた。





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