残暑はなかなか結構ひりりひりりと暑い
NNのおっさん2人の妄想とか自分の日々とか色々書いてます

1999年01月02日(土) 文章

ときどき、怖くなる。
こやってテレビの収録が終わると、「おつかれーす」って、別れる。
目は、合わせない。

別にそれがいつもの事やし、今更いちゃいちゃすんのも気持ち悪いとも思う。
ずっと一緒におって、それこそ高校ん時から一緒やからお互い分かり合ってる。
そう思うけど、ときどき怖くなる。


…なんでかな。


あいつが一人でテレビ出てるのを見るとき、
あいつが俺の知らん後輩と仲良ぅ喋ってるとき、
突然、不安になる。
多分、俺の知らん矢部がそこにいるから。
いつか、自分と別の道をあいつは選んでしまうんやないかって。

今まで一緒にやってきた。
だからこれからもずっと…なんて考えてるのは俺だけなんちゃうかって。
お互い違う人間やから持ってる気持ちかって違うのは当たり前やけど、
でも俺は、お笑いしかないから…


矢部とはぐれてしまうのが、怖い。



なに考えてんねやろ。あほらし。
そんな事、ないって。
でも…でもなぁ…

家にひとりでいると、憂鬱が増す。
ぐるぐる考えて、しんどくなる。

「あーもー!」 携帯のメモリを開く。
“相方”の番号を押す。
ほとんど無意識に、でも心持ち緊張して。


『…もしもし?』
「あ、あぁ」
『岡村さん?どないしたん?』
「え…いや…特になんもないねんけどやぁ」

電話をかけてしまってから、自分の行為に恥ずかしくなる。

『びっくりしたでぇ。普段電話せぇへんから』
「うん…」
『なんかあったん?』

なんも、ないよ。

「あの…声…聞こかなー思て…」
『え?』

言うてて恥ずかし。ていうか何を言うとんのや俺。

『俺の声?』
「うん…」
『なんで?どうしたん?なんかあったんか??』

あいつの声は、半分笑ってる。
でも、俺を探ってるのが分かる。

「ごめん、急にかけて。ホンマ、ホンマ何もないねん」
『いや、変やん!こんなんお前せぇへんやん』
「うん…じゃぁまた明日な」
『ちょ、ちょぉ待てや!』
「ごめんな」
『ちょぉ…』

ピッ

…切った。切ってもた。
あいつの声聞いた所で、なんの解決にもならんのは分かってた。
やのに電話かけて迷惑までかけてもうたなぁ。

「はぁーあー」
ソファに寝ころんで、わざとらしく大きく溜息を吐く。
あー、何したかってんやろ。




ぴんぽーん

……

ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん

…誰?


インターホンのスイッチを付ける。
そこに写った顔を見て、俺はびっくりした。



「矢部?」
『あっ、岡村さん?ちょ、入れてよ』

断れず、鍵を開ける。
どうしよ…俺が電話なんかしたから…
急に矢部の顔を見るのが怖くなる。

「よぉ、いらっしゃい」

平静を装う。
今更こんな態度とっても、こいつにはバレてるんやろうけど。


「急に電話して急に切るからビックリしたで?」

矢部が言う。

「俺、岡村さんが死ぬんちゃうかって思った」
「ごめん、おどかして…なんも、ホンマになんもなかってん」
「ホンマに?」
「うん」
「ホンマに俺の声聞く為だけに電話したん?」
「…うん」


あ、今。
高校のとき、ふられた俺を矢部が慰めに来てくれたのを思い出した。

矢部の目が、俺の目を覗き込む様に見る。
思わず目を逸らしてしまう。


「いっつも一緒におるやん」


矢部の声が、突然頭の中で大きく響いた。
いつも一緒におる?じゃぁなんで、俺はこんなに怖くなんの?

「一緒て…一緒やけど…」

矢部が、俺の次の言葉を待つ。

「そや…今は一緒におるよ?でもいつまで一緒におるか分からんくない? 35歳まではって契約にしたけど、ホンマはそんなん…そんなんじゃなくて、 もっとずっと、ホンマはやって行きたいねん…?でもお前の気持ちもあるし、 そこは縛る事はできひんやん。俺のせいでチャンス逃したりとか、アカンやん? せやけど俺はお前と……これしかないから……さぁから…」


堰きをきった様に、気持ちがあふれた。
いきなり過ぎて矢部には何の事かわからんかったかも知らん…
それでもこいつはずっとちゃんと聞いてくれた。

「俺は、契約の話が出た時からそうやねんけど、そんなん考えた事ないよ」

俺に言い聞かせる様に矢部が言う。


「俺は、これから先もずっと、ふたりでやってくつもりやで?」
「でも、ずっとなんて、永遠なんてありえへんやん!」


俺、泣きそうになってる。

「永遠なんてありえへんかも知らんけど、やっぱ無理やもん。 
こんなん言うの恥ずかしいけど、岡村さんおらな無理やもん。 
…だから、少なくともどっちかが死ぬまではやってきたいよ」

そぅっと抱きしめられる。
あかん、俺泣いてるわ。


「岡村さんが嫌じゃなかったら俺はずっと…… 
なんかコレ、プロポーズみたいやな(笑)」


頭なでられて、泣きじゃくって、子供みたいや。
でも、なんか楽になって安心した。

「…ありがとう…」

小さく言った。




==============================
おためしで、昔ここに書いてたやつ載せました。
設定時期は古いです。4、5年くらい前です。
ナマモノなのに無防備に伏せもせず隠しもせずで
マナーもくそもない状態なので、
もしなんらかの形で間違ってココへ来てしまった方がいらっしゃれば
申し訳ありません。


 <<古い方  ここを押せば目次です  新しい方>>


油木かい [MAIL]