パンドラの箱
DiaryINDEX|past|will
髪を伸ばすのは好きじゃない。 昔は半年と同じ髪形はしていなかった。 伸びるのが早いから、失敗してもすぐ伸びるし、と恐れずカットをし、ウェーブさせ、イメージチェンジを楽しんでいた。
「長い髪のほうが好きだな」
そんなことを言う男は大嫌いだった。 長くても短くても似合えばいいじゃないか。 長い髪の女と言う記号を愛しているのか、とうんざりし、次に逢うときにはわざとショートにしていった。
「長い髪にしているところを見てみたいな」
そう言われて、久しぶりに伸ばしてみようかと思った。 伸びていく髪。 過ぎていく季節。
その先にあったのは別れだった。
誰かのために髪を伸ばすなんて乙女チックなことはしてはいけなかった。 後悔したけれど、なくした恋のために髪を切るのも悔しかった。 次にどこかで出逢った時に、長い髪の私を見て、後悔させてやりたかった。
そのまま時は過ぎ、伸ばしっぱなしでいたのだけれど。
「あなたの髪が良かった」
あなたがそう言ったから。 きちんと手入れして伸ばそうと思った。
「しばらく逢えないね」
「次に逢うときまで髪を切らないでいようと思うの。どこまで伸びるかな」
伸ばした髪は逢えない時間の長さを計る物差しになる。 どこまでもどこまでも伸びていく髪がいつかあなたに届くことのないよう。
|