パンドラの箱
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2005年12月14日(水) |
all the time |
パタンと携帯を閉じた。
もうこんな思いはうんざりだ。
だいたい携帯を持つのは嫌だったのだ。常につながっている。いつ、どこにいて も何をしていても、あたしは瞬時に捕まえられてしまう。
「いまどき携帯持ってないなんて珍しくネ?」
そう言ってあたしに携帯を持たせたのはノブだった。
なければ何とかなるのに、いったん持ち始めると手放せなくなるのが携帯だ。
最初は物珍しさから、友達とメアド交換して、別にどうだっていいこと、例えば 「暑くてダリ→ヽ( ̄д ̄;)ノ」とか、そんなくだらないことを送り合っては、 暇つぶししていたが、段々返信するのも億劫になって、ほったらかしていた ら、友達からのメールの数は減っていった。
ノブはマメな男で、ヒマさえあればメールを送ってくる。
「マジ眠いって。超ダルダル」
みたいなどーでもいいことを送ってきたかと思うと
「早く会いたいな。次いつあおっか?」
なんて歯の浮くようなメールまで時間があれば送ってくるのだ。
最初はいちいち返信するのがめんどくさいような気がしていたが、そのうちそれ は習慣的なものになり、ノブからメールが来ればすぐに返信し、しまいには ノブからのメールを待つことなく、自分からメールを送るようになっていった。
1日のほとんどをメールを送りあうことで費やし、あたしはノブと常につながっ ていると言う不思議な安心感を持ち始めていた。
つながっている。
それは目に見えない束縛だった。
会えないときは朝から晩まで起きている間中、時間さえあれば、お互いの居所を 確認しあい、お互いの行動を監視する。
緩やかなしかし完璧な束縛にいつしかあたしは息切れし始めていた。
ノブもそうだったのかも知れない。
いつしか、あれほどうんざりするほど来ていたメールの数は減っていき、メール がきても即レス、と言うことはお互いになくなっていった。
目に見えない束縛が緩やかに解かれていくと今度はどうしようもないほどの孤独 が襲ってきた。
彼の全てを把握していたつもりになっていたのに、実際何も分かってなかったの に気がついた。
声が聞きたい。
その手に触れたい。
文字ではなく、本物のあなたに会いたい。
いてもたってもいられなくなったあたしは、ノブの番号をプッシュする。
「ノブ、ノブ会いたい。今すぐ」
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