パンドラの箱
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「キレイな満月ね」
彼女の視線を追うと確かにそこには満月があった。
「ほんとだな。月見にふさわしい満月だ」
「よかった」
俺の返事を聞いて彼女が嬉しそうにほほ笑んだ。
「よかったって何が?」
「キレイなものを見て、キレイだ、と感じることができるのは実はとても大事な, ことなのよ。心にゆとりがないとそんな風には思えないし、そもそも、 きれいなモノに気付かないでしょう?」
最近仕事が忙しい。こうして彼女とゆっくり会うのは久しぶりだ。
甘えん坊で、寂しがり屋の彼女のことだ、きっと我慢してたに違いない。
今日だって、たまたま仕事が早く終わったから会えたのだが、疲れているせいか、 こうして久しぶりに彼女と会っているのに、不機嫌な顔をしている俺を見て、 きっと不安になったのに違いない。
自分のことで精一杯で彼女を構ってやれなかった自分を恥じた。
「ごめんな」
俺は謝ると彼女の肩を抱いた。
俺の肩にもたれかかりながら彼女は静かに月を見ていた。
彼女の横顔が月の光に照らされている。
「キレイね」
「ああ。キレイだね」
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