Spilt Pieces
2007年12月12日(水)  未来
彼は、気がついていたと言った。
電話に出ない理由。
それでもあえて「おやすみ」と書いたのだと。
連絡があるまで、珍しく仕事が手につかなかったと。
本当に、彼らしくない。
突然拒否した私を、責めなかった。
ただ、「声を聞けてほっとした」とだけ、嬉しそうに言った。


プロポーズされたわけでもないのに、私は彼に思うがままのことを言った。
同居はしたくないこと、友達がいない土地へ行く勇気はとても持てそうにないこと、彼の家族とうまくいくかどうか分からないこと。
どうやって生活していくのか、子どもの教育はどうするのか、そんなことまで含めて。
まるで、もう結婚が決まった二人のように。
暮らし始めてからのお互いの名前の呼び方まで話した。
何だか不思議な感じだと思った。
ほんの数時間前まで、別れることしか考えていなかったのに。


「クリスマスは、別れ話をしに行くつもりだった」
そう言ったら、
「クリスマスは、楽しく過ごそう」
と返ってきた。


「電話に出ないんじゃなくて、出られないんだろうなって、薄々気づいていたよ。もしかしたら寝ているだけかもと、少しは思ったけど(笑)」
お見通し。
「正月に自宅へ戻ったとき、付き合っている人がいるという話をする気だった。でもそうすると確実に連れてきなさいと言うだろうから、さとがどう言うのか少し心配だったけど」
「けど?」
「けど、やっぱり、一度うちに来てみてほしい。会わないで、想像で、不安ばかりを募らせていても仕方ないし」
「でもね、仮に、いくら気が合ったとしても、私は同居はしたくない。同居できないなら結婚できないというのなら、お互い年齢を重ねる前に別れよう。それは、私も、譲れないから」
「いつか気持ちが変わるかもしれないし、今の時点であまり断言はしてほしくないけど…でも、さとが嫌だというのを無理強いする気はないし、同居じゃない形を探すよ。同じ町内とかでも嫌?」
「うーん…できればそこそこ離れていたい。そうしないと、正直、私の性格じゃ気を遣って疲れる」
「それなら、そういう風に話をしよう?話し合いもする前に、勝手に考えて勝手に落ち込まないでほしい。一緒に考えよう」
「もし、私とあなたのお母さんの気が合わなかったらどうするの?」
「それは、母ももちろん大事だけど、さとを守るよ。当たり前だろ」
「…ごめん。そんなことを言わせてしまう、こんな質問をする自分は、好きじゃない」
「大丈夫。それより、連絡がつかなくて、不安だった。寂しかったよ。もし今日も音信普通だったら、自宅に電話しようかと思ってた」
「まさか」
「いや、本当に、そう思ってた。さとのこと失いたくない。大事だから」
「私が喜ぶ言葉を学習しているね(笑)でも、その手には乗らないよ」
「そうじゃないよ。さととなら、ずっと仲良く笑っていられる気がする。うまく言えないけど…とにかく大事な人。結婚したいと思う」
「今日、ずっと、どうやって別れたら傷つかないか考えてたのに」
「ごめん、なんていっても、別れる気ないよ」
「いきなり連絡が途絶えても?こんなに毎回泣く女、うっとおしいと思うよ。それに、会う前から同居完全拒否だし」
「それでも」
「ストーカー?」
「そうかも」
「気持ち悪い」
「しょうがないじゃん」


何なんだろう。
話せば話すほど、彼が住んでいる環境は変わらないのに、私の不安もそのままなのに、少しずつ、別れる以外の道を探そうという気になってくる。
相談した友人が、「一人で決めずに必ず相手と話し合いなさい」と言っていた。
その意味が、何となく分かった。
言葉をもらうだけで、こんなにも気分が違う。
不思議。
消そうとしていた未来が、ほんわかと少しだけぬくもりを持った。
「さと」
優しく呼ぶ声を、やっぱり失う気になれなかった。
涙が止まらなかった。
一緒に乗り越えていくしかないのかもしれない、と思った。
どうしよう、また、好きが膨らんでしまった。
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