Spilt Pieces
2003年04月18日(金)  月
月が、ぼんやりとしていた。
手を伸ばすことなく届くような気がした。


車の窓、全開。
強い風に流されて、髪が顔にまとわりつく。
カーステレオのボリュームを上げる。
坂道を下るとき、対向車のライトが眩しくて視界が悪くなった。
まるで、先の見えないジェットコースターに身を預けているかのよう。
こんなことじゃ、本当はいけないのだろうけれど。


手を離したい衝動に駆られる。
心静めて、ミラーを見るフリをしながら背後に浮かぶ空を吸い込む。
現実に引き戻されるのは、信号を待つときだけ。
暗い田園風景の中、ゆっくりとアクセルを踏み続けた。
窓を開けているので、あまり速度を上げることなく風を感じる。
後ろの車が、近寄ってきた。
制限速度を守る私に、少しイライラし始めたようだった。
窓を開ければいいのに、などと届くはずのない独り言を投げる。
暑いくらいの春の夜。
昨夜テレビが、五月下旬の気候だと言っていた。


信号の赤いライトに照らされながら、ギアをニュートラルに入れて待つ。
田舎道、長い長い信号。
大丈夫、時間はたっぷりあるのだ。
空を見上げると、ただでさえほのかな明かりの朧月夜、月が申し訳なさそうに佇んでいるのが目に入る。
ふと、青い光が顔を差す。


このまま空へと溶けたいと、坂道を走りながら目を閉じようとする私を月が見守る。
冷たいわけじゃない、だけど静かな目線。
そして結局は今日も、私の足は地面を踏む。
ジャリ、と、コンクリートの上の砂の音。
ここは空じゃない。
確認しながら、今日も何かに勝った気分。
意味もなく楽しくなる。
こういうことの繰り返しが、私にとってはひどく心地よい。
だから、空へ溶けること、本当はまだ望んでいないのだろう。
それは、願わくばもう何十年後かに。


月の夜の戯言。
儚い時間の繰り返し。
優しさに溢れた空間を積み重ねて、悲しみを置き去りにして、今ここにいることが嬉しい。
年をとることは嫌じゃない。
今日、冗談で学年を誤魔化した。
でも本当は、そんなことどうでもよかった。
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