Spilt Pieces
2003年04月16日(水)  身体
身体が、こんなにもよくしゃべるものだとは思わなかった。
研ぎ澄まされた空間の中、音も立てずしなやかに動く。
幻影か。
動いた身体を目で追っては遅れてしまう。
「個」など、どこにもなかった。
切り離して感想を述べるほど無粋じゃない。
ただその空間全てを、そのものとして捉えるので精一杯だった。
その場所では、音も声も息づかいも、全てが身体を引き立てる飾りにすぎない。
幻のように過ぎた時間。
身体が、こんなにもよくしゃべるものだとは思わなかった。
表情すらも、いらないところ。


大学の講堂で、ダンス部の公演を見た。
「感想をお願いします」
そんなこと言われても、言葉が出てこなかったのだからしょうがない。
むしろ、言葉で表現したら今感じた全てを空中に放出しかねない気がした。
だからほとんど何も書かずに出てきた。


私の通う大学のダンス部は、とてもレベルが高い。
以前テレビに出ているのは観たが、目の前では、これが初めて。
いつも、行こうと思いながら行きそびれていた。
今までどれほど損をしたことか、そう思いながら、今日観られたことが嬉しかった。
教えてくれた友人に感謝。


私は、日常においても多弁だ。
言葉に頼りきってしまっている。
だが、言葉を使えないときには、表情を使う。
両方を使えないときには、手を使う。足を使う。
普段、あちこちで見られる光景に違いない。
鍛えられた身体で、洗練された動きになるとああも違うものか。
身体だけで、あれほどまでに多くを伝えられるのかと思ったら、全身が震えた。
各プログラムの冒頭に入る解説の言葉さえ、消してほしいと思った。


言葉は私の中から出てきた廃棄物。
劇団の先輩が、以前「芝居は僕の排泄物」と表現していた。
その意味が、最近になってやっと分かってきたような気がする。
私という人間がいて、それ以外の事実がなくて、なのにあえて出てくる言葉。
悲しいことに、私は他の方法を知らない。
感覚的に分かったところで、それを実現できるかどうかは別の問題。


私は、空気や、雰囲気や、目や、身体や、そういうものの使い方が未だにうまくいかない。
吐き出した途端に宙へと消えていく言葉は、その瞬間私の中から失われる。
だから、ネットなどで言葉を吐くことに対しては抵抗がない。
ここは、私が言葉を捨てる場所。
消しきれない顕示欲を満たし、いらない自分を捨てる場所。
捨てたものに、誰かが重ねて同じ思いを捨ててくれるのなら、こんなにも嬉しいことはない。
そう思いながら、毎日何かを吐き出しているんだろう。


普段の生活の中で、言葉を発さずに会話できるようになりたい。
だけどそれは理想。
理想はいつだって遠くにあって、手を伸ばせば、ゆるやかに解けて空へと溶けていく。
Will / Menu / Past : Home / Mail