Spilt Pieces
2003年03月28日(金)  先輩
劇団の先輩が、就職のためこの地を離れることになった。
いざとなると、実感がない。
泣いたのは、むしろ二週間以上も前のこと。
いることが当たり前だったから。
いないことの方が、非現実的。


あの先輩がいなかったら、私は芝居をやったかも分からない。
元々入るつもりで説明を聞きに行っていた。
だけど、自信がなかった。
「やりたい」なんて、誰かがそれをはっきりと認めてくれなければ言えなかった。
それくらい、当時の私は弱かった。


一度会っただけなのに、名前と顔を覚えていてくれた先輩。
そのときの笑顔に惹かれて、決意。
「この人がいるところなら、大丈夫」
芝居をやりたいという思い以上に、怖がりだった。
その場の勢いに任せなければ何も行動できないような弱虫だった。
今も、そうかもしれないけれど。


いつも、私を明るく呼んでくれる声が好きだった。
彼女は劇団内の皆から好かれていて、私も尊敬していた。
尊敬できる人のいない空間になど意味がない。
最高の場所だった。
そしてその分、深い劣等感からは抜け出せなかった。


送り出される先輩と一番仲のよかった先輩が、言った。
「一番近くにいた。そして私は常にコンプレックスを持っていたよ」
ガンと殴られたように感じた。
私も、そう。
醜いほどの感情が生起するのは、いつだって一番身近で大切な人。
だけど、それが悪いばかりだとは思わない。
ナアナアの関係など、最初から求めてはいないのだから。


いつも中途半端だった。
どこか一箇所に力をシフトするのを避けていたからかもしれない。
人間関係を形成する上で、私は常に自分に対して複数の言い訳を用意する。
こんな悪い癖が、自分を寂しがらせるはずだと、分かっていても。
器用に生きられない。


学んだと思えることがある。
やり抜くのはかっこいいのだと、実感したこと。
そして、半端な自分を許容する自分が身を潜めたこと。
今自分にないものを嘆くより、まずは行動するしかないと、以前より実感を伴って思えるようになった。


人と人との出会いほど、学ぶ材料となるものはない。
そのことを、我ながら遅いとは思うけれど、大学で初めて経験として知った。
昔の自分を捨てるわけじゃない。
でも、これからの自分は、今の自分が築く。
一般に、開き直りと形容されるかもしれないけれど。


先輩が卒業することが、寂しいけれど、不思議と悲しくはない。
たくさんの課題と土産を残していってくれたから。
「行ってらっしゃい」と見送った。
きっとこれでいいのだと思う。
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