Spilt Pieces
2002年12月12日(木)  冬の朝
今朝大学の構内を歩いていたら、池に氷が張っていた。
朝の太陽に翳して見ると、光を透過する薄い道ができているかのようだ。
相も変わらず寝不足の私にとっては眩しすぎて、目を細めても辛い。
きっと足を少しでも乗せたら、体の重みを少しでも預けたなら、一瞬にして消えていってしまうであろう脆く崩れやすい道。
苔が静まり返る山道を、葉の一枚も踏まずに歩こうと努力するようなものだ。
結局、眺めるだけに留める。


氷の途切れている辺りの石の橋を渡ると、いつもと同じように水面が微かに揺れた。
誰が放ったかも分からぬ魚たちは、息も白く空へと立ち上るような寒い朝にも、ヒラヒラと小さな尾を動かして藻の中へ沈んでいく。
何となく、30cmの距離を、果てしなく遠く感じる。
人が増えてきた学内で、私は少しずつ人の目を気にし始めながら池をぼんやり眺めていた。


一歩踏み外せば、氷点下の水で衣服を湿らしてしまうことだろう。
それでも、隅を歩いてみたかった。
空を見上げながら太陽の光に心詰まらせ、大きく大きく息を吐く。
ずっと空へと向かっていくようなのに、気づくといつもどこかで見失っている。
今年も結局手袋は買わなそうだなと一人呟きながら、冷えた手足を擦り合わせる。
しゃらしゃらと、乾いた音が僅かに響く。
何となく、一人で朝を味わっている。


池のほとりを歩み進ませながら、ふと目を遣ると、氷の中に白い影。
この前降った雪のようだ。
さては、逃げ遅れて閉じ込められたなと、意地悪な笑いを浮かべてしばし観賞。
水の中、ゆらりゆらりと揺れながら、外では融けてしまったはずの雪が今も我が物顔で漂っている。
きっとメダカが寒かろうと、一寸目を細めた。
雪はいつまで揺れているだろう。
仲間が欲しいと嘆くだろうか。
チャイムが鳴って駆ける私を見送って、雪はやっぱりゆらゆらゆらゆら。
鼻をすすりながら、冬の朝を走っていく。
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