2005年12月24日(土)  私の彼葉 第8節。
 
私たちは引き離されました。彼はお姉さんに連れられて。私はお兄さんに連れられて。泣きやまない私を、係のお兄さんは、「もう大丈夫、何も出てきませんよ。もう大丈夫ですから」と、彼と同じことを繰り返し言っていました。男ってこんな状況になると皆同じことを言うのでしょうか。
 
別の扉に入った彼は悪霊と闘っている。今こんなことを書くと馬鹿馬鹿しくて笑えてきちゃうけど、その時は本当に彼が、周囲にいつもビクビクしていて、誰ともうちとけようとせず、愛想笑いを浮かべている彼が悪霊と闘っている。そのことが惨めで悲しくて、涙は留まることを知らず、出口の明るい光に照らされながら流れ続け、私は心から彼が悪霊を退治して戻ってきてくれることを祈りました。
 
「彼氏さんが悪霊に勝った時、そこの小さな穴から手を差し伸べてくれます。その時は、彼氏さんの手を強く握ってあげてください。最後に彼氏さんを助けるのは、あなたなのです」
 
係のお兄さんの説明を虚ろな思いで聞きながら、木の扉の小さな穴から彼の手が出てくることを祈りました。お願い。私の彼を返して。別れる覚悟は、まだ、できてないんだから。
 
ゆっくりと彼の手が出てきました。ゾンビでも悪霊でもない、左手の薬指におそろいのリングをはめた彼の手がゆっくりと出てきました。私は「さあ、彼の手を取って下さい」と言うお兄さんの言葉よりも先に彼の手を握りました。おかえりなさい。よく頑張ったね。もう離さないよ。早く、早くあの暖かい家に帰ろうよ……。
 
「ウガーーーーーーーーッ!!」
 
突然、彼の手の上に位置する引き戸が開いて、顔がただれたゾンビが飛び出してきました。涙が枯れていなかったら、一気に流れ出したことでしょう。声が枯れていなかったら、大声で叫んだことでしょう。膀胱が膨らんでいたら、おしっこを漏らしたことでしょう。確かにあの手は彼の手でした。でも顔はゾンビでした。それはゾンビのマスクをかぶった彼でした。
 
「ゴメンゴメンゴメン! やれって言われたからやっただけなんだよ。ゴメンゴメンゴメン!」
 
オバケ屋敷を出てから、遊園地の広場で私は泣き続けました。さっきまで「大丈夫、大丈夫だから」と言っていた彼は今はもう「ゴメンゴメン」を繰り返すだけです。
 
私たちの恋愛は、このようにして幕を閉じます。彼の腕にしがみついて、明るい場所が見えてきて、彼が手を差し伸べて、最後は恐怖と悲しみの底に落とす。いつか訪れる光を信じて、私は涙で視界を閉ざす。オバケ屋敷のような恋愛。私の枯葉。私はゾンビの彼を、怖がって憎しんで、とてもとても、愛していました。
 

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