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| 2005年12月13日(火) 私の枯葉 第4節。 |
| 月に1度の定期イベントのように、深刻な口調で別れの言葉を呟く彼に呆れ果て、今日も私は「またまたー」なんて言って冗談に受け止めたけれど、私だって馬鹿じゃないので、彼の口調がいつもと違うということに気付かないわけがない。彼は本当に私と別れようとしている。冗談で受け止めているうちは、私の心の準備ができていないから。 でも彼はこれからどうするのでしょう。好きな人ができたって言ってるけれど、浮気なんてできるような器用な男じゃないのは、私が一番良く知っている。彼の書く文章は恋愛のこと、浮気をテーマにした物語は定番のようになっているけれど、あれはただ自分自身が浮気なんてできないから欲望なのか何なのかわからないけど、自分を投影できない部分をむやみに空想を広げて書いているだけなんだもの。未知なるものこそ空想はバラエティーを生むものなの。彼は好きな人と手を繋ぐことはおろか、まだ好意を伝える言葉すら言っていないに違いないわ。 原稿の締め切り前には変に気が荒れて、突然大声で歌い出したり、「ごめんなさい本当にごめんなさい」って誰に謝っているのかわからない謝罪を延々と続けたりするけど、誰があんな状態に陥った彼の頭を優しく撫でてなだめるのでしょう。 たたまずに放り出された洗濯物を誰が文句一つ言わずに、んー、そりゃあ私は文句の一つ二つ言っただろうけど、誰がきれいにたたむのでしょう。彼はすぐ曇っちゃう浴室の鏡を私が磨いていることを知っているのかしら。「ユニットバスなんだから浴槽は週に1度だけ洗えばいいんだ」って妙な理屈を言う彼の言葉に納得する振りして、私がシャワー浴びるたびにカビキラーで浴槽を磨いていることに気付いているのかしら。 カーペットの下だってあれほど掃除してって言ってるのに、「カーペットの下は外気に接していないわけだから、埃が発生するわけがない」ってこれまた妙な理屈を言って現実を直視しない彼に、「ほら、こんなにいっぱい埃がたまってるでしょ!」って説明して、「へぇー、これが石鹸かすバリアか」って頭がおかしいコメントを残す彼に誰が合わせていけるのでしょう。 私は心配です。彼は東京に来て、仕事関係以外の人と接することを極力避けているような気がするのです。飲みに行っても羽目を外すこともなく、病院関係では主任、ライター関係では作家という顔を決して崩さずに、引きつった笑顔を浮かべて不味い酒を旨い旨いと飲み続けて翌日に二日酔いで絶望の淵に追い込まれているような人なのです。 私と別れて、彼が言う「好きな人」が恋人になっても、その恋人は、本当の彼を見てどう思うのでしょうか。優しく手を差し延べてくれるのでしょうか。あの洗濯物は、浴槽は、カーペットは、これからどうなってしまうのでしょう。 私は心配です。心配だから、彼に会うために、東京に行きます。 |
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