2004年11月12日(金)  Destination-TAKAMATSU.
 
昨夜未明から降り始めた大雨で気分が屈託、鬱屈。ナースステーションの窓を開け、まだ夜が明けぬ東京の空を見上げながら深い溜息、マイルドセブンの煙。午前4時。大きく背伸びをして、頭をクシャクシャと掻いて看護記録を記入する。患者が目覚めるまでまだ時間がある。患者の看護記録1枚1枚に「入眠中」「入眠中」「入眠中」と書いているうちに、それが自らの暗示となり、徐々に襲ってくる睡魔。僕はナースステーションの机に突っ伏し、午前4時の心地よい眠りの誘いに身を委ねた。
 
「お客様……お客様、到着致しました」
 
優しい声と優しい仕草で肩を叩かれ僕は目覚める。目をこすりながら窓の外を見るといつの間にか雨は止んでいる。Destination-TAKAMATSU.Flight-JAL1405.Gate-87.スチュワーデスの笑顔、僕の狼狽。いつの間にか雨は止み、東京の重くて暗い空は消え失せ、そこには高松の抜けるような青空が広がっていた。
 
夜勤明け、山手線、モノレール。朦朧としたまま搭乗手続きを終え、僕は5ヶ月振りの高松に来ていた。朝から何も食べていない。昨夜11時頃に看護婦さん達とインスタントラーメンを食べた。明日は本場の讃岐うどんを食べに行くんだと笑いながら。5ヶ月振りの高松、1ヶ月振りの彼女。彼女の肌は讃岐うどんのように白い。讃岐うどんのように白い腕は僕の腕に捲き付いている。
 
「久し振り」
「そうでもないわよ」
 
彼女はまるで昨日も僕と会っていたかのような素振りを見せるけれど、口元には1ヶ月振りの笑みが浮かんでいる。かけうどん140円。二人で280円。周囲は聞きなれない讃岐弁と、「あなたに貰ったネックレス、ちぎれちゃったの」という彼女の悲しい言葉。「あぁ……、あのピアス……明日つけるわ」妙によそよそしい彼女の素振り。僕達は遠距離恋愛なんだから、このようにネガティブに考えようと思えばいくらでも考えることができるし、幸福に浸ろうと思えば思う存分浸れることもできる。全て僕の匙加減。そして彼女のホルモンバランス。
 
「さて、そろそろキミのお母さんに挨拶に行かなくちゃ」
「じょ、じょ、じょ、冗談でしょ」
 
悪い冗談に素直に狼狽するキミの右手は讃岐うどん。
 

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