2004年08月24日(火)  二つの別れ。
 
学生である彼女は夏休みを利用して、東京にあるもう一つの家、説明しづらいが、おそらくお金持ちなのであろう。とにかくそのマンションにひどく偉い仕事をしている父親と滞在している。僕達は遠距離恋愛をしているが、この一ヶ月は遠距離ではない。電車で2本も乗り換えたら裕に遊びに来れる距離に二人は存在する。
 
8月24日。彼女が東京に来て、もう半分以上が過ぎた。
 
「今日どこ行く?」
「ナンジャタウン!」
「次は?」
「花やしき!」
「あ、それからアキバに行きたいな。デジカメ欲しいんだよ」
「アキバはやだ!」
 
と、彼女のわがままは愛嬌というオブラートに包まれ、それをキレイに飲み込んでしまう僕の心境は一言で表すと「幸福」であり、もはや彼女の全ての行為を許せるという、神の領域に踏みこんでしまったような感じまで覚えてしまったりする。
 
「ナンジャタウンってどんなとこ?」
「とにかくナンジャーって思うような楽しいところよ!」
 
彼女の言うことはちっとも面白くないけれど、それさえも愛嬌というオブラートに包まれて万事オッケーになってしまう。僕達は池袋駅のカフェで待ち合わせをして、手を繋いでサンシャインビルに向かっていた。
 
「ちょっと待って。お母さんから電話」
 
そういって彼女は街の喧騒が届きにくい場所を選び、携帯を両手で包むような格好で話をしていた。今日の天気と一緒で、彼女の表情もみるみるうちに曇っていった。そして静かに携帯をたたみ、うつむきながら再び僕の手を握った。
 
「今から帰らなくちゃいけない」
「そうなんだ。しょうがない。また明後日休みだしね、ナンジャタウンは明後日にしよう」
「違う」
「ん? 何が?」
「香川」
「ん?」
「香川に帰らなくちゃいけないの」
 
突然の祖父の死。その圧倒的な現実は、遠距離恋愛の再会の楽しみや、手を繋ぐ幸福、顔を寄せる喜びを、容易に陵駕した。
 

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