2004年08月23日(月)  4割の猜疑心。
 
僕は彼女の携帯を見ない。これは僕の歪んだ信念に基づいている。彼女がシャワーを浴びている。テーブルの上にエメラルドグリーンの携帯が置いてある。シャワーが彼女の肌を跳ね返す音が聞こえる。視線を携帯へちらと移す。僕は見てはいけないものを見てしまったかのように慌てて視線をテレビへ戻す。歪んだ信念。
 
恋人の携帯には、相手の人生を脅かす悪魔が潜んでいる。
 
好奇心に駆られてちらと覗こうとしたが最後。その悪魔は想像を絶する現実を背中に抱えて襲ってくる。聞いたこともない男の名前に変えて。言ったこともない耳も腐るような口説き文句に化けて。
 
「恋愛を続けるコツはね、6割の信頼と4割の猜疑心を持つことが大切なんだ」
「ひどい人」
 
そう言って彼女は僕の首筋にかじりつく。4割の猜疑心。「僕はこれでも4割に抑えようと努力してるんだよ」10割の猜疑心。これでは恋愛が成り立たない。3割の猜疑心。これでは同じベッドに入っても落ち着かない。4割。妥当な線だと思う。信頼を上まらず、それでいてしっかりと存在感を示す。
 
多少の危機感。結婚なんてものは猜疑心による危機感が除々に失われていくから往々にして崩壊するのだ。
 
4割の猜疑心。僕はその4割の全てを携帯電話に委ねている。そこには何かがある。砂上の楼閣が崩れ落ちるように、僕達の関係をいとも簡単に崩壊させる何かが眠っている。はずである。恋人の携帯を開いたが最後、そこから立ち昇る黒い煙は嫉妬・絶望・憤怒というどうしようもない感情を僕に植えつけるだろう。彼女がシャワーからあがってくる。バスタオルで髪を拭きながら僕に微笑みかける。
 
「シャンプー切れかかってたわよ」
「あ、そういえば電話あったよ」
「あら、そう……メールね」
「……」
「お母さんからだったわ」
 

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