2004年08月19日(木)  おじさんをさがした。
 
今日見かけたと看護婦さんが言っていたので、休んでいるわけではないのだが、病院中、どこを探してもおじさんは見つからなかった。
 
「あぁ、研究室じゃないの?」
「研究室?」
 
仕事帰り、一緒によく飲みに行くヘルパーさんが何でもなさそうな口調で言った。しかし口元には意味ありげな笑みが浮かんでいる。
 
「案内するよ」
 
ヘルパーさんはそう言って、迷路のような病院の階段を昇ったり降りたりしながら「研究所」へ向かった。自分の病棟へ帰れないんじゃないかと心配になるくらい歩いて、ようやく朽ちたような鉄の扉の前で止まった。
 
「ここだよ。それじゃあ」
「え? もう帰るんですか?」
「オムツ交換の時間なんだ」
「あぁ。わかりました。ありがとうございます」
 
鉄の扉の前に一人残された僕は、「研究室」をノックするか少し躊躇して、その気持ちがそのまま表に出たような控え目なノックをした。
 
「やぁ看護師さん。何の用だい」
 
そこは研究室だった。研究室に存在するような物は何一つなかったけれど、2畳ほどしかない空間の天井には鉄のパイプが張り巡らされ、鉄骨が剥き出しになった壁には帚やモップ、竹の筒や針金などが吊るされ、豆電球一つの灯りに細かい埃が揺らぎ、空気は淀み、非常灯が部屋中をほのかに赤く染めていた。そして、そこに「おじさん」がうずくまっていた。小さな光を頼りに、古い腕時計を分解していた。
 

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