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| 2004年08月18日(水) おじさんをさがしていた。 |
| この職場はとにかくでかいので、僕は未だにどこの階にどんな病棟があって、どんな構造になっているのかということを把握できていない。医者の数も多ければ看護師はその10倍は存在する。ホームヘルパーや薬剤師や検査技師や心理士やソーシャルワーカーや事務員や調理師や掃除のおばちゃん、それに何百人という患者さん。そして。 僕は「おじさん」を探していた。病棟のトイレの床が漏れているので婦長さんにその旨を伝えたら「おじさん」に言ってみればよいと言われた。 「ほら、あのおじさんよ」 「……おじさん? あぁ」 その会話だけで「おじさん」という存在は僕の意識上に浮かんできた。皆がおじさんと言えば、この病院ではあのおじさんしかいない。僕はおじさんを探すことにした。 まずは看護婦さん。 「あのおじさんを探してるんですけど」 「あぁ、イソギリさん? んー。わかんないわ」 ヘルパーさん。 「あのおじさんを探してるんですけど」 「あぁ、カツラギさん? どこだろうねぇ」 患者さん。 「あのおじさんを探してるんですけど」 「あぁ、シガラミさん? その辺にいるんじゃないの」 おじさんは人によってはイソギリさんだったりカツラギさんだったりシガラミさんだったりする。ただ聞き取りにくい名前なのかもしれないし、誰もおじさんの名前を知らないのかもしれない。 いつも小さな帽子をかぶって薄汚れたYシャツを着て、腰の部分にトンカチやらノコギリやらドライバーなどをぶらさげているおじさん。病院の庭で花に水をやっている時もあれば、靴箱の前で何をするでもなくずっと立ち尽くしていることもある。 僕は病院中を駆け巡っておじさんを探した。白衣の下のTシャツが汗で背中に張り付いていた。いつもどこかで会っているはずなのに、どこを探してもいないおじさん。食堂の端で、いつもテレビから目を逸らさずに昼食を摂っているおじさん。 僕はもうトイレの水漏れを直してもらおうという目的を忘れて、ただおじさんを探していた。 |
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