2004年06月16日(水)  ノキアに揺れる。
 
「人生に行き詰まりを感じたら、僕はグルメになろうと思ってるんだ」
「どういう意味?」
「美味しいものを美味しいって感じることができたら世の中どれだけ素晴らしいんだろうって思う」
 
新宿の焼肉屋。1年振りに会う女性と食事。例えば僕たちが食べているロース。「ロースセット」1200円。そのメニューの上に「上ロースセット」2400円。この1200円の差額を舌で感じることができたらどんなに素晴らしいことかと思う。寿司屋で口に含んだだけで中トロと大トロの区別ができる生活。素晴らしいじゃありませんか。そんな人生って、きっと楽しいと思う。
 
「んー。無理ね」
 
彼女はカルビを頬張りながら呟いた。僕がカルビセットを注文し、彼女はロースセットをオーダーした。1年振りに会う女性と焼肉を食べるなんて、僕も少しは気を遣うべきなのだが、一度肉が鉄網に乗ってしまうと、どれがカルビでどれがロースだかわからなくなるので、口に入れて確かめようと思うけど、咀嚼しても尚、肉の種類がわからない。よって、僕たちは気を遣い合うこともなく、肉を突き合っていた。
 
「そんなもの禁煙したって直りはしないわよ」
「うーん。それではどうすれば僕の人生は」
「亜鉛を摂るの」
「亜鉛?」
 
亜鉛が不足すると味覚障害が生じるらしい。だけど僕は明日の仕事で患者さんたちと七夕の飾り付けをしなければならず、味覚よりも職場のレクレーション係である僕はそちらの方が切実で、焼肉屋を出て、というか実は待ち合わせ時間より早目に新宿に到着してドンキホーテで七夕飾りを探していたのだけど、歌舞伎町近くのドンキホーテには、七夕飾りなんて平和なものは売っておらず、異常に安いいかがわしい下着や下着や下着ばかりで、それらに目を奪われていたら待ち合わせの時間が過ぎていて、急いでアルタ前に走ったらタモリが亜鉛。
 
焼肉の後は東急ハンズ。七夕飾りはどこにある。さーさーのーはーさーらさらー。……。その後が歌えない。ずっと歌えない。さーさーのーはーさーらさらー。ノーキアーにゆーれーる。なんだノキアって。携帯か。わからないものはわからないので、「笹の葉さらさら置き場に揺れる」というところで現在は収まっている。なぜ笹の葉が置き場で揺れているのかわからないけど、ノキアよりは置き場だろうと思う。
 
七夕セットを買って、それから彼女に画期的なアイロンの存在を教えてもらって、大型家電製品店で洗濯機の開け方すらわからず途方に暮れて、亜鉛が減って、美味しい手作りのケーキ屋さんに連れてってもらってリンゴ丸ごと1個食べた。
 

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