2004年01月07日(水)  歯ブラシとの別れ。
 
いつも買い忘れていた歯ブラシのことを東武ストアで運良く思い出し、今度のやつは奥歯まで綺麗に磨ける山切りカットだよ。色もポップなオレンジだよ。これでようやく充実した歯磨きライフを送ることができるよ。と思ったのも束の間、新しい歯ブラシを買った日に限って泊まりに来る人がいて
 
「これ、使っていいよ」
「わぁ。ヨシミくんって準備いいのね。いつも誰かにこういうことやってんのね」
 
と、僕の身を削る優しさを履き違えて受け止めて、そんなこと言うなら返してくれお前歯ぁ磨くな不快感と虫歯均に襲われながら寝ろ。と言いたいのだけど、そういうこと言うとベットであんなことやこんなことができなくなる可能性があるので仕方なく「優しいけど常に自宅にスペアの歯ブラシがあるヤサ男」というキャラを演じ続けることになった。
 
さて、女なんてどうでもいい。飯を食う時と一緒に寝る時と買い物する時と愛を語る時と手を繋いで笑い合う時以外は必要ない。今日は僕の歯磨きライフについて話したいのだ。
 
正確に測ったことはないけど、1本の歯ブラシの耐用年数はいったいどのくらいだろうか。1ヶ月? いや2ヶ月は使ってる気がする。どうだろう。2週間のような気もするしね。だけど少なくとも2週間は同じ屋根の下で1本の歯ブラシと一緒に暮らすわけですよ。そりゃ愛着も沸いてきますよ。
 
でも、この世に永遠なんてものは存在しない。僕も歳を取るし歯ブラシのブラシの部分も広がってくる。広がってくると歯垢が取れにくくなり、寝てる間に虫歯菌が増殖し、歯の象牙質を浸食し、やがてエナメル質まで到達する。すると歯が痛くなり飯を食っても美味しくない。飯を食っても美味しくないから食事の約束もドタキャンしてしまう。ドタキャンすると約束した相手との関係が険悪になる。険悪になると人間がすさんできて自暴自棄になる。自暴自棄になると学校を休んでNHKの教育テレビばっかり見てみんな今頃授業受けてるんだよな。と救いようのない優越感に浸ることになる。
 
そんなわけで歯ブラシが1本駄目になるだけでこんなにも人間は駄目になってしまうのだ。もともと弱い生き物だからね。で、歯ブラシ。短い人生の更に短い期間を一緒に過ごした1本の歯ブラシとの別れの時が今迫る。
 
残念だけどお前はもう使い物にならなくなってしまったんだ。買い手がいい人もしくは倹約家もしくは変わり者だったら退職したお前を靴磨きに使ったりキッチンのシンクを磨いたり網戸の細かい部分を磨くなどする余生を与えてくれるだろう。だけど僕は駄目だ。そういうの億劫だし、多分そんなことやってたら女にモテないだろうし。僕は男としてこの世に生を受けたから必然的に女にモテたいからね。だから、キミとはサヨナラだ。もう終わりだね。キミが小さく見える。
 
と、一人ユニットバスに立ちすくみ、古歯ブラシと無言の会話をする。最後にお疲れ様と呟いて、古歯ブラシをゴミ袋に捨てる。しかしテレビなどを見てるときゴミ袋の上の方に古歯ブラシが見えるとなんとも痛ましい気持ちになるので、ゴミ箱の奥の方に詰め込んでその上からコンビニの弁当箱や菓子パンの袋をかぶせて見えなくさせる。
 
そして僕は東武ストアのビニール袋から新しい歯ブラシを取り出す。合理的な手段としては、まず新しい歯ブラシを手に取り、それをユニットバスに持っていって古歯ブラシと交換して、古歯ブラシをゴミ箱に捨てるということになるんだけど、この方法を使ったら古歯ブラシと新歯ブラシがしばしの間対面してしまうことになる。これはまずい。いかんともしがたい。古い彼女に別れを告げて出ていく彼女がマンションのドアを開けた瞬間、新しい彼女がドアを開けようとしていたという状況と同じじゃないか。男はずるい生き物なのでこういう状況はどうしても避けたい。
 
古い彼女は私に向かって叫ぶだろう。「私は使い捨てだったのね!」
 
僕は鼻をほじりながら平然と言うだろう。「だってキミよりいいやつが東武ストアで138円で売ってたんだもの」
 
まぁこのセリフは開き直ってこそ言えるんだろうけど、僕は生来小心者なので「私は使い捨てだったのね!」などと面と向かって叫ばれたら狼狽して「いや、えっと、あ、そうだ! 靴磨きに使ってあげるよ」と笑顔で返すだろう歯ブラシに。一人ユニットバスに立ちすくみながら歯ブラシに。
 

-->
翌日 / 目次 / 先日