2003年12月26日(金)  凍えた両足。
 
目が覚めて、部屋の窓を開けると隣の家の屋根に雪が積もっていた。いつの間に降ったのだろう。確か昨日の夜は雨が降っていたはずだ。雨は、夜更け過ぎに、雪へと、変わったのだろう。
 
何重にもマフラーを巻き、3年前に付き合っていた彼女からのクリスマスプレゼントの手袋をつけ、黒いニット帽を被り、別れたばかりの彼女からのクリスマスプレゼントのワインレッドのバッグを肩に掛け、仕事に出掛けた。
 
吐く息は想像以上に白く、その冷気は黒いレザーの手袋を容易に突き抜け、肌を刺した。道路に雪は積もっていなかったが、道路の脇や木の枝、屋根の上にはまだ朝日に照らされた雪の結晶が輝いていた。
 
故郷に帰省するらしい大きな荷物を抱えた正月休みの人々と一緒に電車に乗り込む。いつも土曜の朝の電車は空いているのに、今日は平日と変わらないくらい満員だった。一人これから仕事だという白い溜息を吐きながら吊革を持ち、駅に到着するのをただ電車の天井を見上げながら待ち続けた。
 
駅を降りてしばらく歩いたところに人が死んでいた。
 
死後から数時間経っているらしく、60歳前後の初老の男性の身体には、もう死後硬直が始まっていた。カチカチになった四肢を眺めながら、顔や胸や腹に積もった雪を見ながら、この人は冷凍されていて、お湯でもかけると生き返るのではないかと思わせた。しかし目に活力はなく、重くて黒いそらを瞬きもせずに見上げていた。
 
道の脇に人が死んでいる。その横を通る人はその非日常的な事実を理解しているのかしていないのか、ただ少し振り向くだけで、立ち止まりもせず、駅の方向に白い息を吐きながら歩いていく。
 
しばらくしてパトカーがサイレンも鳴らさずにやってきて、4人の警官が悲しい色の大きなビニールカバーでその硬直した死体を包んだ。
 
ビニールから飛び出したボロボロの靴を履いた両足を見ると同時に、朝の厳しさと雪の悲しさと冬の強さと人の冷たさが同時に襲ってきて、その場に座り込んでしまいそうになった。
 
今まで何十回、何百回と越してきた夜の、たった1晩だけ越せなかっただけに、その人は死んでしまった。ホームレスだったのか、酩酊してその場に寝てしまった人なのかは、今では知る由もない。
 
あの硬直した両足は、無表情で通り過ぎる人たちに、切ないメッセージを送り続けていた。
 

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