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| 2003年12月24日(水) 相手のいないプレゼント。 |
| 別れた彼女にプレゼントを贈るということは、どういうことだろう。 約2週間前、僕は彼女と別れた。彼女にとっては青天の霹靂で、髪を乱し声を震わせ涙を流した。僕にとっては揺るぎない事実で、歯を食いしばりながら自らの心を閉ざした。別れるなら今しかないと思った。無意識に、辛い思いをさせ続けるのであれば、今のうちに、僕は握っていた手を離さなければいけないと思った。 そうしてまた僕は一人になった。だれかと恋をする度に、僕は決まってその終焉に大きな爪痕を残す。相手はその傷が癒えるまで、何を考えているのだろう。僕のことを憎んだり罵ったりするのだろうか。 仕事帰りの電車の中、吊革を掴みながらそう考えていた。電車の窓の外は暗く、鏡のようになり僕の疲れた顔を映す。僕の前にはカップルが肩を寄せ合って座っている。彼女の手には大きな白い紙製のバッグ。中身は、想像しなくてもわかる。そのカップルは狭い電車の座席で肩を寄せ合い、とても幸福そうに小声で囁くように話をしていた。その紙製のバッグには、大きな赤いリボンがついていた。 いつもと違う駅で降りる。12月の街は賑やかで、通り過ぎる人たちは少なくとも僕より幸福そうに微笑んでいる。その通りには、電柱ほどの高さのクリスマスツリーが立っている。僕は顔をしかめて、通りに面した店に入る。 「いらっしゃいませ」 僕と同じくらいの年齢の女性が控えめな口調で挨拶する。店内はクリスマスイルミネーションで彩られていた。どの服も、その光を吸収して、誰かに着てもらえる日を楽しみに待ち望んでいるようであった。 「この黒いコート、学生の頃から使ってるの」 あの日、夕食を食べた店を出て、彼女は冷たい風にさらされた時にそう言った。彼女が仕事の時にスーツの上に着る黒いコート。シンプルなデザインで、どんな服装にも合わせられそうなコートだった。そのコートには、学生の頃からのいくつもの冬の思い出が詰まっているのだろう。彼女は愛惜しそうに、そのコートの襟を立てた。 「コートを、ください」 僕は自信が欠如した声で店員に話し掛ける。閉店間際、レジの前で伝票を広げ、電卓を打っていた女性が顔を上げる。僕はもう一度「コートが、欲しいんですけど」と呟く。その店は女性服ばかりで、店内は僕一人だけ男で必然的に掛ける声も小さくなった。 「どのようなコートをお探しですか?」 店員が笑顔で様々なコートを取り出す。襟にファーがついたものや、ウエストが締まったもの。太いベルトがついているものや、純白のもの。 「黒くて、シンプルなデザインを探してるんですけど」 冬の思い出に残らない、黒いコート。彼女が何も考えなくてもまとうことのできる、シンプルな形。店員は2種類の黒いコートを広げた。こちらの方がサイズが大きく見えますが素材が違うだけで同じサイズなんです。こちらの方が若干肩幅が狭くなってます。こちらのベルトは取り外しができますのでいろんな服に合わせやすいです。その女性は丁寧に説明してくれた。そして最後に僕に質問した。 クリスマスプレゼントですか? この2種類の黒いコートのうち、どちらにするか暫く悩んだ挙げ句、ベルトがついていない厚めの生地を使っているコートを選んだ。選んだコートの方が、値段が高く、もう一つの方を買えばその差額で僕が欲しかったバッグが買えたけど、彼女はベルトのついた茶色のコートを持っていて、締めたほうがいいのか、そのままの方がいいのか、そのベルトをいつも気にしていたので、何も気にせずに着ることができるコートを選んだ。 そして僕は、店員が器用にクリスマス用のラッピングをしている手を、ふいに止めた。 「それは、いいです」 僕たちにはもう、クリスマスの赤いリボンは必要ではなかった。 マンションに帰り、ダンボールにコートを入れる。手紙を書こうか迷ったけど、結局何も書かずにコートを入れる。明日の朝、宅急便で送ろう。もう、僕たちは会えない。それはとても辛いことだけど、これからも会い続けるともっと辛くなる。僕はわがままだから、彼女を振り回し続けることになる。 コートの上に、彼女に贈り損ねた9月に一緒に行った外国のアーティストのライブDVDを添えてダンボールを閉じた。 別れた彼女にプレゼントを贈るということは、どういうことだろう。 冷たい部屋で、僕はずっと考えていた。 別れた彼女にプレゼントを贈るということは、どういうことだろう。 小さなダンボールに手を添えて、僕はずっと考えていた。 今夜は、雪が降らなくてよかった。 |
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