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| 2003年10月13日(月) 場末の女マスター。 |
| そのビルに、あのバーはもうなかった。 「先月、つぶれちゃったんです」 彼女はカウンターの奥で氷を割っていた。そのバーはテーブルもカウンターも全て空いている薄暗いショットバーになっていた。 「昨日、オープンしたばっかりなんです。昨日はお客さん多かったんだけど、今日はお客さんが最初の客です」 彼女にばれないようにそっと腕時計を覗く。午後10時。この時間に客は僕一人。照明という概念を無視したあまりにも薄暗いショットバーのカウンターに座り、女マスターを試す意味で最初にソルティードッグをオーダーした。 「え? なんですかそれ。すいません。まだカクテルのことあんまりわかんないんです」 そうだろうと思った。カウンターの奥に並ぶ酒の量を数えたらわかる。あまりにも少なすぎる。 「お酒のこと勉強したいんだけど、飲めなくって……」 「弱いの?」 「いえ、私、18歳なんです」 未成年の女マスター。その事実で驚くべきだが、1時間ほど2人きりで話していたその時、その女性、いや女の子は、突然、 泣き出してしまった。 理由を書くのも面倒くさいくらい哀しい話で、18歳でマスターをしなければならない理由、真っ二つに割れた携帯、カウンターの隅に置いてある割れたワイングラス、傷が付いたレザーのブーツ。彼女は涙を流しながら僕のグラスが空く度に、鼻を鳴らしながら鳴れないカクテルを作った。 僕は何本も煙草を吸いながら、誰か客が来ないか終始ドアの方を見ていた。 もうあのバーには二度と行くことはないだろう。 あの女の子はこれからもずっと幼い瞳に涙を溜めながらオレンジジュースのようなスクリュードライバーを作るのだろう。 |
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