2003年10月08日(水)  繰り返される惜別を味わう為に。
 
「只今帰りました」
「おかえりなさーい!」
 
僕は再びこの場所へ戻ってきた。茶色から黒色に変化した髪型で。3キロ痩せてしまった身体で。短い白衣から医者用の白衣を来て。白衣の下にはネクタイを締めて。看護師から実習生となって、僕は戻ってきた。
 
前の職場に帰ってきた。
 
鹿児島に帰ってきた目的は、大学の必修課目である精神保健福祉援助実習の為。この4週間の実習を終えなければ国家試験資格が得られない。7年間勤めてきた病院を看護ではなく福祉の観点で学ぶ。
 
「実習生さんおかえりなさい」
 
つい数ヶ月前まで僕のことを「主任さん」と呼んでいた後輩がニヤニヤ笑いながら嬉しそうに寄ってくる。
 
「実習生さんコーヒー買ってきて」
 
つい数ヶ月前まで僕のことを「ヨシミ主任」と呼んでいた後輩が僕に100円玉を渡す。
 
「マー坊、あの患者さんの血圧計ってて」
 
看護婦さんがまるで昨日も出勤していたかの如く自然な口調で看護行為を促す。僕は看護を学びに実習に来たんではないですからといいつつ聴診器を首に巻く。
 
そこには数ヶ月前と全く変わらない風景があった。まだ「久し振り」と声を掛けるには早すぎる月日かもしれない。だけど僕はこの数ヶ月、本当にいろんなことがあった。名古屋に行ったり、大学のスクーリングに行ったり、バナナ工場で働いたり、朝まで原稿を書いたり、営業の仕事をしたり、愛する彼女と出逢ったり。
 
その月日を全く無視するかのように、まるで辞めた日の翌日であるように。昨日の延長であるように看護婦さん達と冗談を言いながら後輩達と笑いながら血圧を計りながら薬を調剤しながらレントゲン写真を眺めながら患者さんの相談に乗りながら。
 
「なんだか帰ってきたなぁって感じがするよ」
「えっ、誰がですか?」
 
後輩のこの寸頓狂な返事が全てを物語っていた。
僕は帰ってきた。
繰り返される惜別を味わう為に、再びここに戻ってきた。
 

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