2003年07月24日(木)  削られる部分。
「どう?」
「いや、全然、そっちは?」
「まったく」
「ダメっすね」
「ダメだねぇ」
 
職場の喫煙所。ビルの薄暗い一角で同僚と顔を合わせる。僕と同じ日に出社し、お互い最初の3日間で脅威の契約数を叩き出し、社員から怪物などと言われて、それぞれの名誉と誇りを背負って別々の部署へ配属され、それぞれの部署でそれぞれの天狗の鼻をへし折られた。
 
「世間は甘くないっすね」
「うん。最初がうまく行き過ぎたんだ」
 
今日は2人とも1件も契約が取れなかった。彼は僕の最寄駅の2つ先の駅のところに住んでいるため、帰りの電車の中で今日の反省会。「営業は自分の人間的な感情を切り離し、如何に冷酷になれるかが重要な鍵である」という結論に納まる。彼と僕はお互い似ているところがある。どこか、何かに、怯えているような感じがする。時々実力以上の成果を上げるときもあれば、自力ほども自分の力が出せないときがある。非常に、その、なんていうか、人生的にムラがある。
 
「オレ、すでに精神的にボロボロなんすけど」
「僕もそうだよ。昨日なんて夢の中で契約2本取ったんだよ」
「夢の中はまずいでしょ」
「しかもたった2件だもんなぁ」
「あぁ、海行きたいなぁ」
「せめて夢の中だけでもね」
 
沖縄出身の彼と鹿児島出身の僕は東京の荒波に揉まれながら日を追うごとに何かが削られていくような感覚に陥っている。
 
「合わないなぁ。ここは」
「合わないっすねぇ。ここは」
「まぁ生きていくために」
「何かを削らないといけないわけですからね」
「お互い1日5件契約取れたときは」
「酒飲みに行きましょうよ」
「1ヵ月後に千円」
「半年後に一万円」
 
それぞれ悲しく笑いながら、それぞれの部署に戻っていく。

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