2003年07月23日(水)  誕生日。
バスは午前6時に東京駅に到着して、アパートに戻ったときは午前7時を過ぎていた。僕が不在の間、この部屋は彼女が過ごしていた。「おかえり。名古屋お疲れ様でした。そして誕生日おめでとう。27歳だね」テーブルの上に手紙と小さなプレゼント。短い文章を3回程繰り返して読み、静かにテーブルの上に戻す。
 
おそらく、別れる直前に書いた手紙だろう。
僕たちは、それから別れてしまったのだ。
 
短い恋愛だった。喧嘩ばかりしていた。僕は責められてばかりで、僕も彼女を遠回りに責めてばかりいた。全然素直になれなかった。好きだという言葉さえ、最近はもう言えなくなっていた。素直になりたいと願うほど、僕の思いは見当違いの場所に着地し、その種子が根を張り、意味のわからない草木へと変貌した。枝は枯れ、葉は垂れ下がっていた。
 
彼女に謝りたいけれど、何を謝ればいいのかわからない。彼女は僕を責めた倍の量で自分自身を責めていた。謝りたいけれど、何を謝ればいい。
 
午後から、仕事に行った。3日振りの仕事。午前から勤務している同僚が僕の元に寄ってきて「今日1つも契約取れなくって主任と顔を合わせられない」と嘆いていた。「そんな日もあるよ」営業は運にも大きく左右されるから、1件も取れない日もあれば10件取れる日もある。そんな日もあるよ。気にすることはない。午後9時。タイムカードを押して退社する。僕も1件も契約が取れなかった。こんな日もある。
 
同じ日に入社した女性の傘に入りながら池袋駅近くの喫茶店に寄る。「どうやったらあんなに契約取れるのか教えて下さい」という彼女の瞳は真剣そのものだった。僕は今日1件も契約が取れなかったけれど、まだ営業7課の成績トップを維持している。今日のような調子では、明日にでも抜かれてしまうだろう。
 
「何が何でも契約取ってやるって思ってはいけないんだ。僕はこの商品がとても魅力的だと思うから、あなたに勧めているんです。別に興味なかったらそれでいいんです。契約が取れたら給料もアップするけど、取れなかったら給料が下がるってわけじゃないからね。僕は興味あるお客様だけに勧めてるんですっていう姿勢で臨むんでいるんだ。7課の山口みたいに攻撃的な営業は僕にはできない。まず自分を見極めることが大切だと思う。柔軟な姿勢で臨むか、攻撃的な営業をするか」
 
外は雨が降っている。彼女は真剣に頷いている。弱い者が弱い者を契約させる気弱な営業。僕はもう僕自身のやり方を見つけた。これからも僕はそうやって仕事を続けていく。自分のペースで、時々周囲を気にしながら。
 
駅の近くのケーキ屋で小さなケーキを1つ買って、彼女がいなくなった部屋で深夜番組を見ながら食べる。前の職場の後輩が誕生日を覚えていて、電話をくれた。僕は元気でやっています。自分のペースで、時々周囲を気にしながら。

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