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| 2003年07月10日(木) 戦慄の灼熱ボーイ。 |
| 24時。今夜も宇宙服をまといエアシャワーを浴び、工場へ入る。工場に入った瞬間、カスタードクリームやスポンジケーキの甘い香りが広がる。「おえぇぇっ」僕の背後で今日製造工程を共にする20歳の青年が吐き気を催す。カフェやケーキ屋とは理由が違うのだ。1日8時間ぶっ通しでこの匂いを嗅いでいると誰だって吐きたくなる。 「よっ! バナナボーイ!」 昨日のオバサンが僕に声を掛ける。帽子を被りマスクをして目の部分しか露出していないのでさすがに1日経ったら僕のことはわかんないだろうなと思った矢先、バナナボーイと声を掛けられた。またバナナを8時間乗せ続けないといけないのか。戦慄がよぎる。 「バナナボーイって何スか?」 「気を失うまであのバナナを乗せ続ける男のこと」 「うひゃあ、それキツいっスねー」 20歳の青年とマスク越しに会話をする。同じバイトの人たちはもうとっくにベルトコンベアーの前に立ち、カスタードクリームを塗ったりスポンジケーキを並べたりしている。 「あなた達今日は窯の作業ね」 「カマ?」 「そうよ。窯行ってらっしゃい」 と僕たちは窯に連れて行かれる。窯。灼熱のベルトコンベアーに乗って鉄板に乗った焼きたてのスポンジケーキが12個ずつ運ばれてくる。僕はこの宇宙服の上から更にグローブのような手袋と分厚いエプロンをまとい、鉄板の上のスポンジケーキをプラスチックのケースに移すという作業を命じられた。20歳の青年は僕が写したケーキをそれぞれが重ならないように並び替えるという作業。 暑い。製造工程のところは生クリームやバナナを扱うのでエアコンが寒いくらいに効いていたが、ここは焼きたてのスポンジケーキが延々と運ばれてくるのでとにかく暑い。この宇宙服は汗を通さないので10分立っているだけで中に着ているTシャツがびしょ濡れになる。しかもこの窯は工場の職員でさえも嫌がる作業らしく、皆僕たち2人を見るたびに逃げるように去っていく。 「これ派遣のスタッフがやる仕事じゃねぇよ!」 3時間ほど経って突然青年が叫ぶ。初めの1時間くらいはお互い世間話などをしていたが、徐々に口数が少なくなって作業に没頭しはじめていた。ちょっとでも手を抜くと鉄板の列が滞り、押し出された鉄板が床に落ちてしまうのだ。だから僕たちは鉄板が床に落ちてしまう前にそれを取り、ケースへ移さないといけない。常に追われて作業をしている。今日は1万個作ると言っていた。そして鉄板は12個ずつスポンジケーキが入っている。1万割る12。833回。833回も取っては並べ取っては並べの作業を繰り返さないといけないのだ。 「すいません。休憩まだっスか……」 午前5時。僕たちは5時間もこの作業をしていた。午前3時頃小便に行きたくて仕方なかったが、多分それも汗となって蒸発してしまった。気温35℃前後の窯の中で僕たち2人は延々と焼きたてのスポンジケーキを並べている。意識が朦朧なんてものじゃない。すでに気を失っていて残りの気力だけで動いているという感じ。そしてこの窯には誰も来ない。ようやく誰か来た午前7時。僕はもう喉がカラカラで声さえ出せない。20歳の青年が気力を振り絞って社員の元へ駆け寄る。休憩まだっスか……。 「キミ達が休憩入ったら誰がここの替わりするんだよ」 て・め・ぇ・が・し・ろ・よ! 僕は心の中で涙を流しながら叫ぶ。もう頭の中で考えていることは奴隷奴隷奴隷奴隷。僕たちは奴隷。奴隷が作ったバナナオムレットを大衆がコンビニで購入して彼氏と美味いやら不味いやら言ってその後セックスでもしてセックスが上手いやら下手やら思いつつベッドで肩を並べて眠る。阿呆が。糞が。 午前7時。7時間ぶっ通しでサウナスーツのような服を着て作業をしたことがありますか? ありませんでしょ? 僕もありませんでした。ありませんというか、 「こんなんありえねーよ!」 と叫び続ける20歳の青年の気持ちがそれを物語っています。ありえない。休憩とか労働者として当然の行為でさえもこの窯の中でこんがり焼かれてしまっている。労働とはこういうものなのだ。僕は3ヶ月も働かないで廃人のような生活をしていたので罰が当たったんだ。攻撃性が常に内向的な僕は自分を責めてばかり。45分間の休憩が与えられたのは勤務終了の30分前だった。 |
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