2003年04月19日(土)  布団3点セットにまつわる話。
今使っている布団は5年前付き合っていた彼女のお母さんに買ってもらったものなので、いつまでも過去を引きずるわけにはいかず、今回の引越しというイベントを利用して、心機一転、布団に潜り込み、彼女今何してるかなぁ。彼女のお母さんも元気してるかなぁと暗い影を追うような真似をするのはもうよそうと思い、近所のデパートに布団を買いに行った。
 
昨日の広告に「布団3点セット5000円! 限定3組!」と購買意欲をそそる甘い言葉に魅せられて、昨夜職場に電話して、引越しの見積もりが来るし、歯も痛いし、風邪もひいたみたいですなどと思いつく限りの言い訳を並べて、午前中休みをもらって、自責の念にかられたけれど、僕の有給はまだ腐るほど残っていて、どうやら十何日の有給は腐ったまま退職してしまうので、いいじゃないか。有給使ってんだからいいじゃないか。僕の勝手じゃないか。布団が欲しいんだい。と自分自身に言い訳をして、励まし続けて、10時開店のデパートに9時50分に到着して、入り口に並んで「90本で200円の鉛筆を買いに来ました」と小声で呟き続ける少年に列を譲って、並んでいる人数は約15人。
 
果たしてこの15人の中で限定3組の布団3点セット5000円を購入するために土曜日の朝の9時50分なんて馬鹿げた時間に並んでいる人間は何人いるんだろうと考えていると「いらっしゃいませ! おはようございます!」と威勢のいい店員の声と同時に自動ドアが開いて、自動ドアが開いた瞬間、9時59分まで保たれていた15人の列の秩序は一瞬にして崩れ、我が先に、我が先に、利己主義自己主義エゴイズムと見苦しいほどに物欲に侵されたオバさんたちが水牛の群れの如く押し寄せて、呆気に取られた僕は出遅れてしまって、エレベーターは利用せず、2段飛びで階段を駆け上り、3階の布団売り場へ。
 
限定3組。もうないかもしれない。有給取った意味がないかもしれない。と布団3点セットのところへ駆け寄ると、余裕で佇む3点セット。畜生。僕だけ舞上がってしまった。あの15人の中で布団3点セットが喉から手がでるほど欲しかったのは僕だけだったのか。ちょっと焦っていたのが恥ずかしい。焦燥の感が顔に出ていなかったであろうか。平静を装おう。この売り場を漠然的に通りかかった振りをしよう。
 
お、なになに、布団3点セットで5000円? わぁ、すごく安いや。別に欲しくもないけど、安いからとりあえず買っとこ。という偶然布団3点セットに巡り会った成人男子という態を装おう。という態度を取り、商品をすぐには取らず、点検とか、肌触りとかダラダラと確かめて、買おうかな、やっぱよそうかなという演技を誰も見ていないのに演じつづけて、やっぱやめよう。と見切りをつけて、3階布団売り場を一周してまた戻ってきて、やっぱり安いから買って損はないかな。という演技をまた始めてようやくレジに持って行き「ポイントカードはお持ちですか?」と訊ねられて、僕の設定では土曜日の午前中に早起きしたはいいが何もすることがなくて、とりあえず近所のデパートに来てみたら布団3点セットが5000円だったので、あっても損はないと思い、購入せしめようと思い、それは気紛れにも似た購買意欲で別に布団3点セットなんてなけりゃないで僕は普通に生きていけるし、家には昔の彼女のお母さんに買ってもらった布団があるので、買うつもりはなかったのでポイントカードなんて持ってきてませんよ。という演技を演じて、ポイントカードは持っているんだけど、ボクハフトンヲカイニキマシタ! という屈託ない意志が筒抜けにレジのオバちゃんにバレるのが恥ずかしくて、ポイントは加算されず、現金だけ出して、税込み5250円。布団3点セットを購入しました。

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